新兵達 1
要するに、貴族や王族ならまずもってつれていない。ついでに云えば、位の高い兵や学者、侍従に侍女にしても、飼うことはない。
勿論聖女も。
「スゥーリー。可愛い……」
ちょんちょんと、スゥーリーの頬をつつく。スゥーリーは、眠そうに瞬く。なにか食べさせてあげたい。くだものが好物なのだそうだ。食材を出す魔法で出そうか。
渋面だったランベールさんが、表情をほんの少し柔らかくし、なんだかほっとしたような声を出した。「随分、気にいったのですね? その飛びねずみが」
「あ……はい」
片手に握りしめていた帳簿で、体を庇うみたいにした。なんとなくはずかしかったのだ。
あら?
「なにかあったのか? パジスさん?」
通りから声がした。ランベールさんがそちらを睨み、わたしの前に立つ。が、わたしの視界を全部は遮らないようにしてくれていた。わたしは女の子を手招く。女の子はさっと走ってきて、わたしの腰へしがみついた。ギモーヴは、そのあしにまといついて、ぐるぐる云っている。スゥーリーは、どうやら本格的に眠ろうとしているらしかった。「ギモーヴ、とりあげられたら、どうしよう」
「なんとかなりますよ」
「そうならいいけど……」
きょろきょろしながら這入ってきたのは、王領警備部隊の兵だった。ふたりだ。格好から判断するに、役付ではない。どちらも高校生くらいで、外套は仕立てたばかりのように新しく、ぱりっとしている。ブーツやベルトもどうやら新品だ。腰に佩いた剣が不自然に見えるくらい、動きがぎこちなかった。兵になりたてなのだろう。
ふたりとも、ランベールさんを見て目をぱちぱちさせた。「ありゃ? 居ないじゃないか」
「なんだ、来客中か」
「我らは客ではない」
ランベールさんが警戒をゆるめた様子で云った。いや、呆れているのだろうか。
王領警備部隊を呼ぶ手間が省けたので、わたしはほっとした。女の子に、いやな出来事について喋らせるのは忍びないが、「やなやつ」を捕まえる為だ。
わたしはほっとしたのだが、あちらは怪訝そうにする。それから、ランベールさんがそれなりに大きな剣を携行している為か、両方とも腰の剣へさっと手を遣る。柄を掴んでいた。
「君らはここの亭主を知っているようだが?」
ランベールさんは呆れた声を出す。剣に手を遣ったからか、それともその動作をとるタイミングが遅かったからか、どちらだろう。
兵達は一瞬目を交わした。
「ああ。パジスさんなら、よくさしいれしてくれるから。兵なら知ってるよ。で、あんたは?」
兵の片方が軽い調子で応じた。
「わたし達は」ランベールさんは寸の間逡巡を見せる。「……わたしとこちらの女性は、通りすがりだ。この店の戸が不自然に開いており、なかで動物が騒いでいたので、這入った」
「騒いでいたって、そりゃあ、空白前だもの。動物ってのは、空白前には騒ぐのが仕事だろうよ。下位コンバーターのない場所でも、そのおかげで空白が来るのが解るんだから」
兵は店内を見渡して、しかし動物はさほど騒いでいないと気付いたらしい。不可解そうに眉をひそめた。「なんだ、静かなもんじゃないか」
「今はそうだろう。だが、先程は騒いでいた。一時間か、それ以上前だ。隣近所に訊いてくれれば解る」




