お掃除 2
なんと云ったらいいのだろう。
意外、は違う。ランベールさんは優しいひとだから、ほとんど見ず知らずの女の子を助けるのは、彼らしい。
そうだ。わたしだって、ほとんど見ず知らずで、ランベールさんに助けられた。
でも、なんだろう。ああ、もどかしい。この感情をなんとあらわしたらいいんだろう。とにかく、彼はとてもいいひとで優しいけれど、王領警備部隊へ口利きする、というような趣旨の言葉を口にするとは思わなかった。
ランベールさんは聖女護衛隊の隊長で、聖女護衛隊隊長は〈陽光の王国〉の兵のなかで一番偉い。ほかの軍への影響力があるということだ。色んなひとから度々云われている、剣聖、というのも多分、なんらかの影響はあると思う。
だったら、ランベールさんが王領警備部隊へなにか頼むというのは、それはもう頼みではなく命令だろう。ランベールさんにそんなつもりがなくても、向こうがそうとる気がする。
誤解、ではなく、利用されるかもしれない。ランベールさんは政治的に、王家にとって不都合な存在だ。王位継承権があって、戦いで相当な功績をあげてきている、軍の一番偉いひとだから。
エドゥアルデさまはその能力を買って、ランベールさんをまもっているみたいだけれど、きっとなにかあったら切り捨てるだろう。それが悪いとは云わない。誰だって保身を第一に考えるに違いないからだ。
ランベールさんが、単に優しさから、ギモーヴと女の子が別れ別れにならないよう動いても、曲解されたり、悪くすれば利用されて、なにかまずいことが起こるのでは……と思うと、心配だ。
それに、ランベールさんにばかり負担をかけたくない。
「なにか?」
「いえ」
反射的に返してから、わたしはちょっと考える。ランベールさんの言動が問題視されるのはいやだ。でも、あの女の子がギモーヴと別れさせられるのは、可哀相だし……。
ふと、奥へ続くアーチの向こうが気になった。あっちには、餌のはいった棚があったらしい。餌をつくったりするスペースなのだろう。そして、こちらの部屋にはカウンタや、棚はない。餌が置いてあった棚に、帳簿はないだろうか。
例えば、このペットショップの亭主がすぐに見付かれば、なんとかなるのじゃないだろうか。ギモーヴを賠償金がわりにもらうのも、そのほうがやりやすい気がする。
わたしは奥を示した。ランベールさんが一瞬そちらを見る。
「帳簿とか、取引先や顧客の名簿とか、ありませんかね。そこに逃げ込んでるかも……」
「わたしがさがしましょう」
「こういうものは、人手を割いたほうがはやいですよ」
「どうしたの」
びくっとした。女の子が、間近に立っている。
わたしはにこっとして、軽く腰を屈め、彼女と目の高さを合わせた。「ギモーヴ、元気になりました?」
「うん」女の子は頷いてから、もじもじと両手を遊ばせる。「でも……ね。あれから、出してあげたいの。ひらかない……」
「錠がかかってるんですか?」
女の子はもう一度、こっくりと頷いて、わたしのマントを掴んだ。「かぎ、さがすの、てつだって」
わたしは姿勢をもとに戻し、ランベールさんを見た。ランベールさんは、渋面で頷く。
「この部屋では見当たらなかった。奥へ行きましょう」




