劣悪な環境 1
特に動物が好きということではない。寧ろ、苦手だと思う。犬と猫に関しては、軽いがアレルギーがあるし、なんにせよ動物と接触していたら病気の可能性があるだろう。それがこわい。できる限り、接触は避けたい。
でも、いじめられているのなら見過ごせない。動物をいじめたり、劣悪な環境においたりするのは、凄く悪質な犯罪だと思う。自分がそんな目にあったら絶対に耐えられないくせに、そして人間にやったら犯罪だと解っているだろうに、喋れない動物だからそんな目にあわせていいと思っている人間の気が知れない。
だが、ここは異世界だ。空白前で気が昂っている、という可能性も、ある。そうやって叫んだり、もしくは暴れたりするのが、こちらの世界では普通なのかもしれない。
なら、直に見て慥かめよう。
わたしはその建物へ近寄っていく。ランベールさんがさっと前に出て、進路を塞いだ。険しい表情をしている。「どうするつもりだ」
「え……だって、あんなに騒いでいるのですもの……もし、様子がおかしかったら、兵に……」
「……あなた当人がどうこうするつもりはないのか?」
その言葉の意味を把握しかね、小首を傾げる。ランベールさんはちょっとすると、わたしから目を逸らした。「わたしが先に様子をうかがう。単に、空白前のいらだちと不安で、あのように騒いでいるだけと云うことも考えられる。だが、あなたの目にいれたくないようなことになっているかもしれない」
「……はい」
やはり、空白前には動物は不安になるらしい。今朝、鳥が一羽たりとも鳴いていなかったのは、檻に閉じこめられていないからだろう。檻がなければ、鳴いているひまがあったら逃げて、安全な場所へ隠れられるのだ。
ここの子達は、それができない状況にあるのだ。ペットショップなら、檻にいれているのが普通だもの。でも、空白前の不安で騒いでいるのなら、誰かが落ち着かせてあげればいいのに。店主はなにをしているのだろう? 檻を安全な、例えば地下室にでも運べば、こんなに大騒ぎすることはないのじゃないかしら。
建物の壁、高い位置から金属製の棒が突き出して、小さくて丸い看板がぶらさがっていた。そちらも金属製のようだ。〈陽光の王国〉の文字なら読めるのだが、看板自体にだいぶがたが来ていて、判読はむずかしい。
おそらく、高級なペットショップだろう。血統がどうとか、由緒がどうとか、読めた。
ランベールさんのせなかに庇われながら進む。ペットショップは相当喧しいだろうに、行き交うひと達はそれを気にかけない。左右の店も、慌ただしくひとが出入りしてはいるが、煩いぞと抗議に来るひとは居なかった。皆、空白前になんとか準備をしようと、必死なのだろう。他人に気を配る時間はない。
ランベールさんが扉の把手に手をかけた。半分くらい、そっと開く。なかからは異臭がする。
扉が動いたことに反応したのか、ただでさえ大きかった動物の鳴き声が、大きさを増した。猿も居るようだ。わさわさと、羽音も聴こえる。
「ランベールさん?」
「……ルオ・パーズ・メット」
ランベールさんが右手に光の玉をつくり、その手を掲げる。咽がいがいがして、わたしは咳込んだ。「スピリ・ビイ・ティエレ・アン・ウィン」




