散策 5
いや、存在するのかもしれない。だが、わたしは見たことがないし、知らない。
少なくとも、数多く存在することはないだろう。そういったものに煩わされた記憶も、誰かが難儀しているという情報も、覚えがない。
ひとを襲うタイプの未確認生命体の話も、大挙して押し寄せたり、警察やらが出動して倒したり、なんて話は、ついぞ聴いたことがない。
だから、こちらの世界の冒険者が常日頃やっている、化けもの退治でお金を稼ぐ、というのは、あちらではできない。冒険家のひと達も、多分やっていないだろう。
冒険家……というと、極地へ行ったり、前人未踏の山を登ったり、未開の地へ赴いたり、そういうイメージだ。それから、歩きで世界一周するとか。
遺跡を調べたり、になると、探検家と呼ぶのがいいのだろうか。考古学者……とか。冒険者には、そういうことをしているひとは、居ないのかしら。
黙りこんだわたしの顔を、ランベールさんは少し心配そうに、覗きこむ。「どうかしたか?」
「いえ。冒険者みたいなひと達は居ると思うんですが……あの、冒険者って、遺跡を調べたりするんですか?」
「そういったことをする者もある」
ランベールさんはこっくり頷く。「城址や戦跡を調べたり、大昔の本を集め、歴史上謎とされている事件や出来事を解明しようとしている者らも、少ないが存在している。学者になれず、化けもの退治で稼いだ金を研究に注いでいるか、そもそも学者になるつもりがなく、実地で研究することを目的としている者か、そのふたつです」
成程、化けもの退治は危険だけれど、短期間で大きなお金が手にはいる仕事でもある。それで稼げるだけ稼ぎ、遺跡を調べる資金を得る、という手もあるのだろう。それに、きっと人里離れた遺跡もあるだろうから、化けものと渡り合えるよう鍛えておいて損はない。
「化けものの生態を調べるついでに、退治して稼いでいる者もあります」
「へえ……」
動物学者、みたいな括りかな?
「そういった者の研究は、我らにもありがたい。リザードマンはたまごからかえるというのも、そういう者らの研究の結果なのですよ」
冒険者って凄いんだ。
「〈遠く〉には、そういう冒険者のほうが多いのだろうか」
「うーん。冒険者と云っていいのか、解りません。そもそも、こちらとは、違うところがとても多くて……」
「そうか、空白もないのだものな」ランベールさんは嘆息する。「秋が毎年かならず訪れるのなら、農家が多いのだろうか」
「いえ……」
頭を振った。ランベールさんは片眉を少しだけ上げる。
「わたしが暮らしていたところでは、年々減っていました」
「それは奇妙だ。実りが多く、空白がない。季節は三月でかならずかわり、一年でよっつの季節が均等に訪れる。つまり冬が何年も続くことはない。ならば、ひとが大勢死ぬ確率は、相当低いだろう。乳幼児の死亡率も低いに違いない。そうであれば、人口は増えるから、魔法によるものでない食糧生産は盛んな筈だ。それとも、誰もが食糧に関する魔法をつかえるのか?」
「いえ、つかえません。農家さんはあまり、儲からないんです」
「何故だ?」ランベールさんは心底不審そうだった。「〈遠く〉では、食を必要としない人間が居るのか?」




