友人達と、再会
船が停まった。碇をおろす音がする。
ランベールさんが港のほうを見て、ぎゅっと目を瞑った。「お出ましだ」
わたしにはなにも見えなかった。高いのがこわくて、へりにはあまり近寄れない。
兵達がタラップをおろす。ランベールさんがそちらへ歩きながら云った。
「あめのさまをきちんとまもっていろ。マーリス、ギゼレ、来い」
ふたりがはいと返事してついていった。ランベールさん達が船を降りる。
わたしは制服のスカートをぎゅっとする。ランベールさんの声は、少し怒ったようだった。なにかあるのだろうか……こわいことが。
ツェレスタンさんが、軽く腰を屈めた。「あめのさま、なんの心配も要りません。自分がまもります」
「兵はお前だけではないぞ、ツェル」
ナタナエールさんが釘を刺し、艫のほうへ歩いて行く。「コランタインと話をしてくる。お前達はあめのさまを」
「はい!」
傍に居た兵達が元気よく応じた。
息を整えた。緊張が凄い。なにが起こるか解らないのは、とてもこわい。
二十分くらい、落ち着かない心地で、ランベールさんを待っていた。風で髪がふわふわ揺れる。今日は、霧がない。
背後で跫がした。「檮原さん!」
わたしはびくっとして振り返る。
そこには、四人が居た。
兵ふたりにはさまれるようにして、阿竹くん達が立っていた。十三日振りだけれど、四人とも元気そうだ。服は清潔だし、髪や顔もちゃんと洗えているらしい。やつれたり、目のまわりが黒ずんでいたりもしない。
吃驚したのと、ほっとしたので、息が苦しい。
「あ……」
「檮原さん、大丈夫だったの?」
日塚さんと、阿竹くんがこちらへ来ようとすると、ツェレスタンさん、アムブロイスさんが、わたしの前にさっと出て、日塚さんを制した。
アムブロイスさんが、四人の近くに居る兵へ、鋭い眼差しをくれる。
「ベランゼル、なにを……何故その者達を出した?」
「何故って、そちらこそ何故まだ下船していない?」
ベランゼル、と呼ばれたひとは、困惑顔だ。「聖女さまは船が停まったらすぐに下船すると……」
連絡ミスがあったみたいだ。アムブロイスさんは額へ手を遣る。ツェレスタンさんが尖った声を出した。
「ベランゼル、とにかく戻れ」
「しかし」
「檮原さん」阿竹くんが云う。「心配したよ。何回云っても会わせてくれないから……」
日塚さん達も口々に、檮原さん、よかった、と、云ってくれる。
じわっと、涙がにじんできた。わたしは頷く。声が出ない。みんな、わたしのこと、心配してくれてたんだ。
なのにわたしは、自分のことでいっぱいいっぱいだった。王太子殿下と会うのがこわいとか、聖女なんてなにかの間違いだとか、そんなことばかりぐだぐだ考えていた。情けない。
目許を拭った。「あの、少しだけ……話を……」
「なりません」
アムブロイスさんが厳しい声を出した。アナフィラキシーを起こしてからこちら、アムブロイスさんとエーミレさんは、わたしをまもるのに躍起になっている。
「おともだちなんです」
咽が詰まったみたいになった。アムブロイスさんは振り返って、眉根を寄せ、片膝をつく。「あめのさま、申し訳ございません。殿下の命ですので」
女性兵と接触させるな、と、同じかしら。
里心がつかないように?
わたしはしゃっくりを怺える。
「解りました」
王室護衛隊に迷惑をかけられないし、もしかしたら……わたしがわがままを云ったら、阿竹くん達に危害が及ぶかもしれない。それはいやだ。
「檮原さん……」
わたしは四人へ背を向ける。兵達がさっと寄り集まって、わたしと四人の間に壁のように立ち塞がった。
タラップを誰かが駈けのぼってくる。




