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思案 2


 レイナル執政官は今頃、玉貨の支給の為に駈けずりまわっているだろう。民に配るのもそうだが、兵にも特別手当が支払われる。王領警備部隊の分に関しては、ランベールの管轄だ。だが、コランタインとマーリスに任せた。信頼に足るふたりだ。……マーリスに関しては、少々問題を起こしたこともあるが。


 ランベールが居るのに気付いた、邸の従僕が、厨房から出てきた。おずおずと近付いてくる。「剣聖さま、もしや、お呼びでしたでしょうか? 我らが聴き逃したのでは……」

「いや」

 ランベールは額へ手を遣って、低く答える。「君らに落ち度はない。少し……考え事をしたいので、静かなこの場所を利用させてもらった。レイナル執政官のゆるしは得ている。だが、掃除の邪魔なら退散しよう」

「滅相もない」

 従僕は激しく頭を振った。それから、暫く逡巡する。

「もし……宜しければ、なにかあたたかい飲みものでも用意いたしましょう。お体が冷えているのではありませんか」

「いや。心遣い感謝する。しかし、そのようなものをもらうと、きっと眠くなってしまうだろうから、遠慮しておく」

 そう理由をつけて、ランベールは従僕を追い払った。従僕は丁寧にお辞儀して、居なくなる。


 あめの程ではないが、ランベールは聖女護衛隊隊長であり、端のほうといえ王家に列なっていて、剣聖の称号を与えられており、位は高い。どんなことで言質をとられるか、解ったものではない。

 卑屈な態度は問題になる。王家の定めた位に相応の態度でなくばならない。そうしないと、王家の定めた位を軽んじているととられる。

 かといって、必要以上に尊大にすれば、ランベールの出自をもとに、王子のつもりでいるとか、玉座を狙っていると難癖をつけられかねない。

 政治というのは煩わしいものだ。


「ランベール卿」

 空白が長引いた場合、どうするか、を考えていると、廊下へのアーチの下に、人影がさした。ランベールはそちらへ目を遣る。「……アルバン卿」

 アルバンは軽くお辞儀して、(あしおと)をあまりたてずに食堂へ這入ってきた。ランベールは立ち上がる。

「あめのさまに、なんぞ、」

「いえ。お(やす)みになれなかったようですので、ゆたんぽを用意いたしました。今は、ぐっすり(やす)んでおいでです」

「そうか……それで、わたしになにか?」

 あめのは四肢が冷える性質(たち)のようだから、ゆたんぽをいれておけば大丈夫だろう。侍従というのはとても気が利く。

 アルバンは寸の間口をぎゅっと噤み、それから云う。

「お願いがございます」

「手当のことならば、コランタインかマーリスへ云ってくれ。必要なものが足りないのなら、ナタナエールへ」

「あめのさまのことです」

 ランベールはぎくりとする。「あめのさまはぐっすり(やす)んでいるのではなかったか?」

「はい。ですが、空白が訪れると聴いて、相当に不安に感じているご様子です。ご婦人には気が塞ぐだけでなく、まわりの男性すべてがおそろしく見える季節でしょう」

 空白になると、女性がまきこまれる犯罪が飛躍的に増す。(たし)かに、心配な季節ではあろう。

 が、〈遠く(ミィト)〉には空白はない筈だ。なら、あめのが不安なのは、我が身を案じてでなく、ランベールの話に基づいて、だろう。


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