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港町・リエヴェレ、到着


「あれがリエヴェレです、あめのさま」

 わたしの左に立つツェレスタンさんが、指さしてそう云った。

 わたしは霧をすかして、それを見る。街、だと思う。黄色っぽい建物が並んでいて、港らしいものもあった。船は、そちらへ向かって、斜めに走っている。

 わたしは手櫛で髪を解す。リエヴェレ、へ着いたと云うことは、王都が近いのだ。なら、王太子に会うのももうすぐだろう。今から緊張して、吐き気がしてきた。

「リエヴェレは、本と化粧品で有名です。お買いものを楽しんでは?」

 ツェレスタンさんの親しげな調子には、もう誰もなにも云わなくなっていた。ツェレスタンさんは人懐っこいのだ。

 上半身だけの鎧を着たランベールさんが、ナタナエールさん、マーリスさんと歩いてきた。ふたりも上半身だけの鎧だ。ふたりは隊長直属だが、待遇は中隊長クラスで、一応船のなかだとランベールさんの次に偉い。あともうひとり、コランタインさんというひとと、女性兵のギゼレさんが、中隊長クラス。わたしの見張りは、ギゼレさん以外の三人と、ランベールさん、ツェレスタンさんがほとんどだ。

 ランベールさんは軽くたしなめる。

「ツェル、あめのさまに要らぬ期待を持たせるな。買いものの時間はない」

「でも、隊長……」

「わたし、おかねもってません」

 議論からいい争いになるのがいやなので、封じようとした。が、ツェレスタンさんは食い下がった。

「予定よりはやくに戻れたんです。少しくらいいいではないですか。あめのさまにも、息抜きは必要です」

「そうかもしれぬが、まずは王都へ戻るのが先決だ。殿下が首を長くして待っているだろう。……わたしを狼狽させようと、てぐすねをひいてな」

 最後の言葉はひとり言だったようで、誰も反応はしなかった。

 ランベールさんは溜め息を吐いて、上位コンバーターの鎖をいじる。招聘儀式が行われた聖堂を襲撃する時、身につけていなかったのは、紛失する可能性があったからだろう。

 上位コンバーターはとてもめずらしく、所持している国・個人は少ない。〈影の左の王国(ルテ・ツァ)〉王家も上位コンバーターを所持しているが、たったふたつ。

 コンバーターは振り出さないといけないし、下位コンバーターは持ち運び不可。玉貨をすぐに〈雫〉へ兌換でき、持ち運びも使用も簡単な上位コンバーターは、戦場で重宝される。だって、玉貨さえあれば、魔力切れはほぼあり得ない。ついでに、化けものは体内に玉貨をためこんでいることもあり、それを兌換して魔力にかえることもできる。だから、どの国も上位コンバーターをほしがる。と云うか、誰でもほしがるものだ。

 ランベールさんは、それを王家から借りている。だから、不始末で失くすことはできない。お金に換えられない損失になってしまう。


 ランベールさんは、なにか考えていやな気分になったか、もう一度溜め息を吐いた。「王都にも、本や化粧道具は売っている。各地から集まったものだ。リエヴェラよりも質はいいのではないか。そのほうが、聖女さまにも相応だろう」

「それは、そうかもしれませんが」

 ツェレスタンさんは不服そうだ。マーリスさんがくすっとした。

「どのみち、のんびり買いものなんてできないさ。聖女さまをひとりにする訳にいかないから、俺達がついていく。王室護衛隊が一緒となれば、息抜きもなにもない」

「それでは、あめのさまは……」

「買いに行かずとも、宮廷魔導士につくらせればよい」ランベールさんは上位コンバーターから手をはなす。「あやつらの半数はその為に居るのだ。それに、殿下があめのさま専任の魔導士を用意しているだろう。あめのさまは、ご自分のほしいものを、ほしいだけ、つくらせることができる。色々と難しい注文をつけても、あやつらは対応する」

 ツェレスタンさんは、不満げだったが、頷いた。ナタナエールさん(今日はハーフアップだ)が、ランベールさんへ云った。

「あめのさまをつれ歩こうとする者が出るかもしれません。自分とコランタインで注意しておきます」

「よろしく頼む」

 ランベールさんがわたしを見た。戸惑っているみたいに、三秒くらい黙ってしまった。

「……馬車を手配してから、下船戴きます。それまでお待ちを」

 わたしが頷くと、ランベールさんは安心したように見えた。


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