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戦闘開始


 非常識なことに、わたしは椅子に座って、用意された容器の中に油を注いでいた。

 投石機の準備はすみ、兵の布陣も整った。エルノアクス軍がかなり和やかな様子であるのに比べ、ツェスブロン軍は血気盛んだ。今しも、ツェスブロン軍の兵同士で小競り合いが起こり、役付の兵が叱っている。わたしはぼんやりそれを見ていた。

 容器がいっぱいになると、兵達が蓋をする。キルクだ。それらは別の兵達が、投石機の傍まで運んでいく。攻撃はまだ開始されていなかった。こちらもあちらも、だ。リザードマンはまだ、姿をあらわしてさえいない。

 投石機の傍に、油のはいった容器が溜まっていく。ひとの頭くらいの大きさの、白いつぼだ。底にぼろくずが敷き詰められていて、着火の手助けになるようにしてある。こういうふうにしたらどうだろうかと提案したら、そのようになったのだ。

 つぼに蓋をする兵達が、不思議そうになかを覗きこんでいた。

「どうかしましたか?」

「あ、失礼をいたしました」

 兵が頭を下げる。作業しやすいようにだろう、うすい手袋をしているだけで、籠手はない。「あの……見たことのない油なもので」

「かわった匂いがしますし……色も、鮮やかで……」

 ココナツ油と、レッドパーム油をまぜてみたのだけれど、めずらしいのだろうか?

 燃えやすさで云えば、ココナツ油だけでいいのだが、色がついていたら解りやすいかと思って、レッドパーム油もまぜてみた。気温は低くないし、空は晴れていて、日差しもある。凝固することはないと思う。凝固したとしても、火がついたら燃えるだろうし。

 天候が崩れなかったのはよかった。雨に降られたら、面倒だ。


 エルノアクス軍が動き出した。わたしは傍らの兵を仰ぐ。かぶとをつけていないコランタインさんだ。

「リザードマンどもが出てきたようです」

「大丈夫ですかね……」

「エルノアクス軍がくいとめてくれるでしょう。侯爵は勇敢なおかたです」

 それはわたしも、身をもって知っている。巧くくいとめてはくれるだろう。けれど、死傷者がどれくらいになるかが心配だ。

 すっと、本営の方向へ目を向けた。わたしからかなり離れた位置だが、医者達が控えている。なにかあったらすぐに治療できるようにだ。治療に必要なものを詰め込んだ馬車も、数台停まっていた。

 反対を向くと、かすかにリザードマンの声が聴こえてくる。相変わらず、くぐもったみたいな、奇妙な声である。


 リザードマンにはエルノアクス軍が対応していた。敵の数はたいしたものではなく、どうやらこちらの偵察を兼ねての襲撃らしい。力加減になやむところだ。あんまりにも全力で返り討ちにすれば、どうしても投石機を落としたくないのだと思われて、逆に攻勢が激しくなるかもしれない。かといって、これだけの人数がいて、手をぬいているのもおかしい。

 わたしは油をつくり続ける。キャノーラ油、ひまし油、菜種油、ひまわり油、ラード……どれが燃えやすい油なのだろう。

 ふっと思い出して、パーム核油をつくった。これは燃えやすかった気がする。やはり、色付け目的で、レッドパーム油をまぜる。「準備せよ!」

 誰かが号令をかけて、兵が投石機の操作をはじめた。仕組みもつかいかたも解らない。

 リザードマンの声がやんだのと、一投目が放たれたのは、ほとんど同時だった。


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