戦闘準備 2
外ではランベールさんが待っていた。すでに鎧を着込んでいるが、かぶとは脇に抱えている。髪をきちんと梳かしたみたいで、黒髪がさらさらと風に揺れていた。
わたしは軽く頷く。「おはようございます」
「おはようございます、あめのさま。行賞はすませておきました。今夜はリザードマンを追い払った祝いの席を設けられると信じています」
「はい」門の方角を向く。「そうなるといいですね。皆さんと楽しくお食事できたら嬉しいです」
そう云ったら、本当にそう思っているみたいな気がしてきた。
別にそれでもいいのか。
馬にのり、ウォークで移動する。出陣準備をしている兵達が、わたしを見ると左手を胸にあててお辞儀する。侍従達が歩きでついてきていた。
聖女さま、と誰かが云い、別の誰かがそれに続く。門を出る頃には、歓声が響いていた。
外には、侯爵と男爵が居た。エルノアクス侯爵は全身鎧と立派なかぶと。ツェスブロン男爵は、動きやすさ重視なのか、胴体だけの鎧をつけて、外套を着ている。フードは相変わらず被っていた。そして、わたしが突貫でつくった斧を持っている。
「ごきげんよう、エルノアクス侯爵、ツェスブロン男爵」
「ごきげんよう」エルノアクス侯爵はにこっとする。「昨夜あのような邪魔がはいったのに、聖女さまのつれてきた魔導士達は相当優秀なようです。投石機は四台出来ましたよ」
「ああ、それは助かりますね。ツェスブロン男爵、昨夜は斧を投げつけたりして」
「いいのです、あのおかげで助かりました。この斧のつかい心地はとてもいいですね。返さねばならぬのがおしい程に」
「それはさしあげました」
笑顔で云う。「うけとってくださらないのですか」
「え……よいのですか? 本当に?」
頷く。ツェスブロン男爵は、嬉しそうに口許をほころばせた。
投石機は慥かに四台あった。リザードマンがつかっていた、やぐらのような大きなものではなくて、ねずみとりのような形だ。
どうやって動かすのかは知らないが、それは兵がやってくれる。わたしが油をつぼのなかへ出す。そのつぼを誰かが投石機へ運ぶ。そして誰かがそれを投げる。それだけの話だ。
投石機で届くくらいの距離にまで近寄る必要がある。車輪が泥で汚れて、移動速度が落ちたり、不具合が起こるのを防ぐ為にか、べにや板のようなうすべったい木の板が、どんどん敷かれていった。もしくは、土に干渉できる者達で、地面をかたく、平らにしている。リザードマンの投石機は、材料だけ用意しておいて、本営ぎりぎりまで近付いてから組み立てたのだろう。手で組み立てたのか、魔法でなんとかしたのかは、解らないが。
地面をかたくするのならともかく、木の板を敷いているのは遠くからでも見える。リザードマンは、投石機が出てくると、すでに理解している筈だ。そうなると、対策をとってくるのは間違いない。例えば、あちらも投石機を出す、というような。
エルノアクス軍がゆっくりと進んでいくのが見える。ツェスブロン軍も、本営前に集まって、ツェスブロン男爵の演説を聴いているようだ。距離があるので聴きとれないが、そちらを見ていたら、ランベールさんがわたしの隣で軽く腰を屈めた。「アンデレは戦いが関わると卑屈さがなくなります。兵達の士気を上げるのもお手のものだ」
それは、面白がっているような口調で、わたしは微笑んだ。




