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目的地について


「どこまで行くんですか」

 翌日、アレルゲン抜きの朝ご飯のあと、魔力が凝ったからと甲板へ出してもらい、わたしは川を眺めていた。霧はさほど濃くない。帆はふくらんでいて、船は順調に動いている。朝の風が気持ちよかった。

 着ているのは、制服。昨日、ランベールさんが洗ってくれたそう。焦げやかぎ裂きがあったので、それはツェレスタンさんが補修してくれた。ふたりにはきちんとお礼を云ったが、ツェレスタンさんにはかしこまられてしまった。

 左右には兵が居る。左にマーリスさん、右にランベールさん。

 ランベールさんは、唐突なわたしの問いに、さっと返事をくれる。

「〈陽光の王国(スプロ・ルオ)〉の、リエヴェレという都市です。そこから、王都・ソレイガルトへ移動します。リエヴェレは王都に近いので、船を降りれば王都まではすぐです」

 わたしは頷く。説明してくれたし、と思って、ありがとうと云っておいた。

 ランベールさんは、なんともいえない、困ったような怒ったような表情を一瞬浮かべ、ちょっとだけためらった後、口を開く。

「王都へついたら、王宮へお越し戴く。殿下はあなたに、重大な話があるでしょう」

 わたしは黙っている。

 これだけの人数で、他国へのりこませてまで奪ってきたのだ。なにかしら、やってほしいことがあるのだろう。

 それが無茶なことでなければいいのだけれど、簡単な仕事をさせるのならこんな方法で「聖女」を手にいれることもない。誰か雇えば事足りる。だから、きっと、無茶を云われるのだ。

 逃げようかなと、昨日と同じく頭を過った。でも、やはり、同じ理由で諦める。阿竹くん達が心配だから。

 日塚さんは、優しくていいひとだし、如月さんも何度かわたしに話しかけてくれた。月宮さんは、ぶっきらぼうだけれど、気遣いのできるひとだ。

 それから阿竹くん。わたしの……恋人。一応。


 その日と、次の日は、特になにもなかった。平和なものだ。

 わたしは、たまに甲板へ出て、兵達が船の向きをかえたり、帆が破れたのを補修したり、鍛錬らしきことをしていたり、そう云うのを眺めた。

 魔力が凝って霧のようになると、航行が妨げられる。そういう時、わたしは甲板に呼ばれた。わたしが魔法をつかうと、霧が消える。魔法で兵達の疲労を和らげたり、体を強化したりした。夜には照明に、光を打ち上げ、航路を照らした。まるで投光器だが、実際役に立ったらしく、船は予定よりも速いペースで進んだそうだ。

 だんだん慣れてきたのか、兵達はたまに、親しげに話しかけてくれる。マーリスさんや、ナタナエールさんは、口調に気を付けろ、不躾だ、と眉をひそめるのだけれど、わたしは気が楽だった。下にも置かない扱いをうけると、なんというか、プレッシャを感じる。

 兵の名前と顔も、少しだけ覚えた。ただ、女性の兵は声も聴いたことがない。わたしが近寄っていくと、逃げてしまう。ランベールさんから、余り困らせないでください、と云われて、こちらが困った。

 なんでも、殿下……王太子らしいのだが、そのひとが、女は一切聖女に近付けるな、というような命令を出しているのだそう。理由については、知らない、とランベールさんは云ったが、目が泳いでたから知っていると思う。

 友達をつくらせない為?友達というか、味方を。

 なんとなくそう感じたが、虚しくもあった。王太子殿下は、わたしを誤解している。というか、今までの聖女はきっと、そういう明るいひとだったのだろう。環境にすぐ順応して、明るくて朗らかで、友達も沢山つくれるような。

 わたしはそんなに器用じゃないし、陰気で社交性に乏しい。そもそももとの世界でも、友達らしい友達は居なかった。阿竹くんは部活が一緒の憬れのひとで、日塚さん達は部活仲間だ。どういう訳か、阿竹くんが恋人になってしまったけれど、それも正しいこととは思えない。


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