夜襲再び 2
「ただし光が苦手で、地上で活動するのはくらい場所か夜間のみ……と云われていますが、光で威嚇して追い払った成功例はありません」
見遣る。みみずというか、ひるというか、ゆむしというか。
くらいのではっきりした色は解らない。明るい色ではある、と思う。手足はなく、筒状の体だ。動きはこうがいびるみたいだった。ぺたぺたと這いずって、防壁へなにかを吐きかけている。
ヴェルグネス小隊長が、悲痛げに云った。「あやつらは、突進してきて打撃攻撃を仕掛ける、人間を食べようとする、毒液を吐く、魔法をつかう、穴を掘って移動する、このいつつを主に行います。のたうちまわって地面を揺らし、落石を狙うこともありますが、今はあまり関わりのない話でしょう。魔法に関しては、体を強化し、場合によっては剣を弾く程硬くなります。目下、最大の問題は、毒液でしょう。あれはものを溶かすのです。特に、石や金属は、簡単に溶かされます。防壁が崩れるのが先か、あやつらが倒れるのが先か……」
なんだ、その厄介な毒は。
「弓で攻撃しないのですか?」
「攻撃があたったらそこから毒液が噴き出し、その状態で突進されれば被害が尚更ひろがるからです。スニーキーワームを仕留めるには、正面に立ち、口のなかを狙って弓矢を射るのが確実で、このような配置の場合、煮立った油や湯をかけるのが最適です。体が縮んでまともに動けなくなるのです。そこを、我ら弓隊が射止めます」
成程。
「よく解りました。ご教示ありがとうございます、ヴェルグネス小隊長」
「光栄です!」
頷く。ヴェルグネス小隊長はもう一度お辞儀して、配下の兵へ指示する。
「スニーキーワームは狙うな。スニーキーワームから離れたところに居るリザードマンを狙うよう」
どうも、それはむずかしいようだ。リザードマンは賢くて、スニーキーワームとつかず離れずの距離を維持している。間違ってスニーキーワームにあたったら、被害が甚大、と思うと、弓隊も躊躇しているらしい。
わたしは内側の防壁で座り込み、弓隊の様子を見ていた。兵達が用意した鍋に、早速お湯を注いでいる。お湯のほうが冷めにくいから、燃やすのが目的ではないし、お湯でいいかなと思ったのだ。魔力消費も少ない。
大鍋にお湯が充ち、別の大鍋ととりかえられる。熱々のお湯や油でいっぱいの大鍋が、外側の防壁へ運ばれ、中身が外へとぶちまけられた。以前、もとの世界で読んだ本に、コスト面を考えると油を熱して敵にかけるのは効率が悪い、と書いてあった。糞尿なら沢山あるしあたためる手間も燃料も要らない、籠城戦で熱した油をつかうのは幻想だ、と。
ただしこちらだと、魔法があるから実用的な手段のようだ。大きな鍋をつくって、油を出して、熱する。ひとりですべてをまかなえなくても、得意な部分を担えばいい。油を出すのが得意ならずっとそれをやればいいのだ。
遠くで歓声があがった。わたしは近場の兵へ訊く。「なにかあったのですか?」
兵は別の兵へ訊き、それがくりかえされ、一分程で答えが返ってきた。
「ツェスブロン男爵が、単身突撃を仕掛けられました」
「え」
兵を仰ぐ。ツェスブロン男爵、なんて無茶をするのだろう。
しかし、役付らしい兵は冷静だ。「ツェスブロン男爵は古今無双の誉れ高い人物です。今までも、単身で突撃を仕掛け、大将首をあげることが幾度もあったとか。敵の剣が三本刺さった状態で勇壮に戦い続け、ついに劣勢を押し返し、また炎で半身焼かれようとも敵陣へつっこんでいくおかたです。リザードマンやスニーキーワーム程度にやられはしません」




