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ピルバグの王 3


 聖女というものの大きさを思い知った。ランベールさんの言葉に、兵達が深く頷いたから。

 こうやってわたしは、ひとを死地へと送り続けるのか。

 ランベールさんが指示を出すと、兵達が動いた。ピルバグの王は、わたし達が居るのとは反対の壁沿いに居て、体の側面をこちらへ向けている。わたし達は、ピルバグの側面へ正対し、慎重に進んだ。

 半分くらい進んだところで、ピルバグがこちらへ顔を向けた。外殻が硬いからか、動きはぎこちない。ランベールさんが云う。

「脚を落とせ」

 魔法が一斉に打ち出された。わたしも、苦手だがピルバグに一番効果のある、炎を出す。狙いは沢山ある脚のうちの、一本。


 流石に、巨大になれる程食べてきた、ピルバグの王は、ほかとは違った。硬い。脚でさえも、一撃では落とせない。体の大きさに比べたら細いだろうが、人間の脚くらいある太さなのだ。

 魔法が複数あたったところは、それでもやはり、落とせた。でも、沢山あるうちの二本か三本落ちただけだ。移動力を損なうことはできない。

 ピルバグの王は怒ったらしかった。耳障りな叫び声を上げ、じたばたと暴れている。人間で云ったら、地団駄を踏んでいるような状態だろうか。だが、体積も重量も桁違いなのだ。洞窟全体が揺れ、わたし達はよろける。それでも槍兵は持ち堪え、ピルバグの王の突進に対応した。

 三人弾き飛ばされた。槍が折れ、宙を舞う。

 全部ではない。残っている兵がすぐに穴を埋める。後列も、よろけながらも魔法をつかった。わたしはさっきのように、灰に(スプロ・メスト)、とやったのだが、標的が大きすぎる所為か、向かって右半面に火がついただけだった。それも、地団駄を踏まれ、洞窟が揺れることで集中が途切れ、すぐに消えてしまう。魔力の無駄だ。小さな魔法を複数あてるほうが失敗がない。


 ピルバグの王が頭を傾けた。「さがれ!」

ランベールさんが叫び、わたし達はさがる。あの動作の後は、毒か魔法だ。

 魔法だった。あられのまざった冷風だ。拙い、と思って、とっさに槍兵の前に炎の壁をつくる。

 相殺できた。ぎりぎりだ。じゅわじゅわと音がして、湯気で視野が悪くなる。

 ざかざかとタイヤがからまわりするみたいな音がした。

 突進だ。

「左右に避けろ!」

 ランベールさんが指示を出した。でも、中央付近の兵は遅れた。

 ピルバグの王が逃げ遅れた兵達を弾き飛ばした。

 わたし達は分断された。


 兵の立ち直りははやい。分断されて、ほとんど半分になっても、すぐに隊列を組み直す。ピルバグの王の巨体に隠れて見えないが、向こう側もすぐに立ち直ったようだ。その上、攻撃を仕掛けているらしく、ピルバグの王が身をよじっていやがっている。

 ランベールさんがあちらに居て、声がはっきり聴こえない。こちら側の人間で一番位が高いのはわたしだ。わたしが指揮を執らないといけない。

「槍の間隔をもっと詰めて!」

 わたしが指揮を執ることに、兵は疑問を感じないようだ。言葉の通り槍兵がかたまる。人数が相当に少ない。「魔法を! 脚を狙って!」

 あの突進と、地団駄は厄介だ。脚を落とさないといけない。動けなくすればなんとかなる。

「聖女さま!」

 わたしはピルバグの王へ向かって走っていく。わたしは斧を持っている。それに魔法もつかえる。

 脚を落とさなきゃ。


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