表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/1167

船上の夜 3


 目を開けると、王室護衛隊のひと達も、立ち上がって頭を垂れていた。ランベールさんは、上位コンバーターをぎゅっと握りしめている。

 ふっと影が差した。誰かがあっと驚いた声を出す。「〈万華(セーン・ミングレイ)〉だ」

 皆、空を見た。わたしも見る。

 星が、一部遮られて、見えなかった。飛行機?

 凄く近くを、飛行機が飛んでいる、みたいに見える。それにしては、音がしない。

 兵達の半数以上が片手をまっすぐ上げて、手を目一杯ひらいた。何事かと、わたしはきょろきょろする。

 ランベールさんがわたしの顔を覗き込むみたいにした。わたしは160cmくらい、ランベールさんは180cm以上あるから、かなり腰か膝を曲げただろう。

 マントがさらっと揺れた。

「あれは、飛翔都市〈万華(セーン・ミングレイ)〉です。ここよりずっと北、世界の北端にある、〈底なし海〉の上空に居ることが多い。この辺りで見かけるのはめずらしい故、兵らはああやって幸運をとどめようとしている」

「ひしょう……ういてるんですか。空に」

「〈万華(セーン・ミングレイ)〉は土台と城壁、至るところに魔法文字が刻まれています。この物体を飛翔させよと」

 ……魔法文字は、彫っても効力があるんだ。

 ランベールさんは付け加えた。

「安易にものに魔法文字を書かないように。それから、声に出してはいけない、危険な組み合わせがあります。時間と場所に関する魔法は、宮廷魔導士に教示をうけるまで、お控えください」

 頷いた。危ないのなら、やらない。

 ランベールさんは満足そうに頷き、空へ手を伸ばして目一杯開いた。手を下ろしたままだった兵達も、それを見ていそいそと手を上げる。

 わたしは、遠いのか近いのかいまいち解らない、ぼんやり光っている部分のある、機影っぽいものを、ただ見詰めた。

 そう長い時間は経たず、影が動き、〈万華(セーン・ミングレイ)〉は月の方向へ動いて、見えなくなった。


 風で霧が運ばれてきた。しかし、すぐに消えてなくなる。

 わたしが飽かずに月を眺めているからか、ランベールさんがマントを脱いで、わたしの肩に着せかけた。

 ランベールさんが低声で云う。

「体が冷えてはいけません」

 仰いだ。ランベールさんはわたしから目を逸らさない。

 わたしはこっくり頷く。「ありがとう」

 ナタナエールさんが、あたたかい飲みもののはいったマグを持ってきてくれた。ハーブティーだ。

 ゴブレットを分解した。兵が数人、息を吐く。

 お礼を云ってハーブティーをうけとり、口をつける。カモミールと、ローズマリー、スペアミントの香り。主体はカモミールで、ローズマリーとスペアミントはほんの少し。それに、こしょうもちょっとだけはいっているみたい。かすかに辛くて、体があたたまる。

 ほっと息を吐く。甘くないのも嬉しい。口のなかがさっぱりする。

「お気に召しましたか?」

 わたしが頷くと、ナタナエールさんはにっこりする。「それは、隊長が」

「ナタナエール。無駄口を叩くな」

 ランベールさんがぴしゃりと云うと、ナタナエールさんは首をすくめて黙った。

 わたしは、月明かりで見える兵達を、観察する。みんな体格がよくて、姿勢がぴしっとしている。それから、女性も四人、居るみたいだった。ここに全員が出てきている訳ではないだろうから、もっと居るのかもしれない。

 男性は、みんな綺麗にひげを剃っていて、髪は短いか、括っている。ランベールさんだけ、せなかの半分程まで伸びた黒髪を、結いもしていない。

 女性は、ポニーテールをみつあみにしたのがふたり、ひっつめているのがひとり、きつく二本みつあみにしているのがひとり。四人とも、金のヘアピンや、金の控えめなアクセサリをつけていた。

 それから、女性は外套の形が少し違う。男性より、裾が少しだけすぼまった感じだ。そして、腋の下から裾まで、かごめみたいな模様の金ラインがはいっていた。

 全員、二十歳から二十五歳、くらい。ツェレスタンさんや、ナタナエールさん、女性のうち三人は、高校生と云われても違和感はない。

 化けもの(モンスター)は沢山居るらしいから、その被害で、兵のいれかわりが激しいのだろうか。エーヴェさんが死んでしまった時も、みんな、それを悼んではいたが、わたし程大きくショックをうけたようではなかった。ひとの死を見過ぎると、慣れて感覚が麻痺してくるのではないかしら。

 それに、仲間の死を直視したくはないだろう。次は自分かもしれないから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ