聖女の宴 1
余程、疲れていたのだろう。そんなに眠くない、と思っていたのに、寝返りを打った以降の記憶がない。
目を覚ますともう夕方で、外には魔法の灯が飛ばしてあった。窓がはめ殺しだから、身をのりだして見る訳にはいかないが、前庭にテーブルやらなにやらがセットされている最中のようだ。
くうとおなかが鳴った。
浴室で身繕いして、パーティ用のドレスにきがえ、おやつを食べる。その後、髪を梳かして、侍従達になんとか体裁を整えてもらった。
浅緑に、深緑のフリルが沢山あしらわれたドレス。白いマントは、深緑と金のリボンで留める。つやのある深緑のパンプスは、踵が高い。
髪は、緑系と金の細いリボンをあみこんだ、ハーフアップだ。相当手が込んでいる。侍従ってこんなに器用なんだ。というか、なんでもできないとだめなのかいしら。ええと……こういう、身のまわりのお世話、というようなことは。
身支度の間に、日が暮れた。空にはもっと、光が飛んでいる。聖女護衛隊と王領警備部隊には、光をつかえるひとが多いのかもしれない。
かすかに楽器のものらしい音が聴こえてきた頃、ランベールさんが迎えに来てくれた。外套と剣はかわらないが、髪に櫛をいれたようだ。
「……なにか?」
「いえ」
じっと見ていたら、不審げにされた。わたしは頭を振る。ランベールさんはにこりともしないが、髪を簡単に後ろで括った姿は、端的に、かっこよかった。でも、いつものぼさぼさ頭のほうが、見慣れているし、素敵かな。
「広間の奥で、演奏をお聴きください。お加減が悪くなれば、すぐに部屋へ戻られるように」
「はい」
すてき?
それは、考える必要のないことだ。
一階、玄関ホールは、魔法の光がふわふわ浮かんでいて、幻想的だった。光の色は、白。たまに、なにかの加減で、ほんの何秒間か虹色に見えることがある。空気中の水分で分光しているのだろう。
外の様子が気になったし、まだ兵達は集まっていない。わたしはランベールさんのゆるしを得て、外へ出る。「わ」
外でふわふわしている光は、もっと多かった。今しも、軍所属の魔導士が、光をつくって飛ばしている。戦場とは思えない、綺麗な光景だ。本営の場所はそもそもはっきり見えているから、敵に場所が解るかもなんて心配もない。
寧ろ、これはある意味威嚇行動だろう。お前達の攻撃なんてなんでもない、脅威にもならない、こっちは楽しく宴会できる余裕があるぞ、という。
綺麗だし、楽しそうだ。わたしは両手を、水を掬うような格好にする。光をあらわせ、とやると、白い光があふれる。それは、わたしの思った通りに、ふわふわと舞い上がる。まるで、花の綿毛みたいだ。
光がすべて飛び去っていくと、周囲の兵達がかしこまって片膝をつき、首を垂れているのが解った。わたしははずかしくなって踵を返す。玄関ホールへ飛び込むと、奥の扉が開け放たれていて、広間が見えた。
濃い茶色の木を張った床。壁は白っぽい。床と同色の天井には、白いレースが装飾的にところどころ張られ、金のリボンがさがっている。
白いクロスがかかった丸テーブルが幾つも置いてあり、奥の一段高いところは、白いレースのカーテンが幾重にも張られ、完全にへだててあった。




