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評定 2


 ランベールは顔をしかめ、低い声で云う。

「なにより、無事の帰還を第一と考えるよう、あめのさまが兵を悼んだ話でなく、兵の死に大層心を痛め、涙を流されたという話をひろめておくように」

 兵の人心掌握は重要だし、士気に関わる事柄はこうやってひろめるよう云いつける。そのおかげで、兵が奮い立つ。いつものことだ。

 が、四人は目を瞠ったり、眉をひそめたり、様々な表情で不快感をあらわにした。「涙を?」

「聖女さまが泣いたのですか」

「いつご覧に?」

 ランベールは溜め息を(こら)える。

 聖女護衛隊がこの調子とは、嘆かわしい。王都に戻った途端に、何人か辞めさせないと行けないかもしれない。聖女と必要以上に親しくなるなとお達しがあるというのに、なにを考えているのか。(たし)かに、あめのは人柄が好もしく、言葉も柔らかくて、接しやすいのは解る。だが、聖女は聖女、何れ王家の誰かと縁付く、高貴なかただ。誤解を招くような高度は控えなければならない。自分の為にも、あめのの為にも。


 しかし、わたしもひとのことを云えた立場ではない、とランベールは思い至り、もう一度溜め息を(こら)えた。

「昨日今日見たのではない。エーヴェが死んだ時のことだ」

 四人ともが息をのんだ。

 エーヴェの死が、あめのに多大な衝撃を与え、怒らせたことを、王室護衛隊から異動した聖女護衛隊の兵は知っている。マーリスはその現場を見ているし、ほかにも複数の兵が廊下で、ランベールとあめのがいい争うのを聴いた。聖女のことだ。兵と雖も、黙ってはいられない。あめのがエーヴェの死を悼み、憤り、自分も戦うと喚いたのは、瞬く間に船内の兵全員に知れ渡った。兵らは心を打たれ、聖女を哀しませたことを反省し、同時に一緒に戦ってくれるのだと安堵し、そして少女を戦場へ送り込むことに罪悪感を抱いた。

 だが、ランベールと云い争うその前に、あめのが泣いていたことは、ランベールしか知らない。それをこの場で云ったのを、ランベールは少し――――いや、かなり――――後悔している。四人の表情が憐れむようなものになったから。

「あめのさま、エーヴェのことをそんなに……」

「今はエーヴェの話はいい」

 ランベールはぴしゃりと云う。「命令を繰り返さねばならないか?」

 四人は頭を振った。コランタインが云う。

「あめのさまがお優しいこと、聖女護衛隊も、王領警備部隊も、理解しています。部屋で泣いてらしたと、それとなく仄めかしておきましょう」

「自分は親しい従僕に話します。補給部隊に配されている者ですから、誰かしらに喋ってくれるでしょう」

「今日の宴に、エルノアクス軍とツェスブロン軍からも兵が来ます。自分が酔ったふりで彼らに話しておきます」

「初年兵達に喋っておきます。彼らは横のつながりが強い」

 ランベールは頷いて、そのように、と云った。


 従僕達が、からになった食器を片付けはじめる。五人は席を立って、ちらっと、リザードマンの陣営が築かれているのであろう方角を見る。

「今日、襲撃されたら、困ったことになりますね」

「昨日あれだけの損害を被ったのだ。幾らリザードマンと云ったって……」

「ピルバグのように、繁殖しているかもしれませんよ」

「だとしても、生まれてすぐには戦えないだろう。あいつらは人間に近い。植物のように、魔法で成長を促すことはできないだろう」

 速成のリザードマンか。なかなかに悪趣味な想像ではある。不可能ではないかもしれないところが。


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