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診察 1


 ランベールさんは厳しい顔付きでそう云いきり、口を噤んだ。わたしも黙って、膝頭を見ている。

 馬車が停まり、報せがあったのか、とても心配そうな侍従達と、緊張した面持ちの医者ふたりが迎えてくれた。わたしは馬車を降り、屋内へ移動する。聖女用の本営にある建物も、内部が豪華だが、ツェスブロン男爵のあの大ホールにはかなわない。本当に、どうやったらあんなことができるのだろう。

 部屋へ着く。用を足し、締め付けが少なくて楽な部屋着にきがえて居間へ戻ると、ランベールさんと医者ふたりがもめていた。


「我らは聖女護衛隊だ。聖女さまのお傍を片時でも離れることはできぬ。ゆるされぬ行いだ」

「ですから」医者のひとりが、怯え顔ながら勇敢にも云い返す。「聖女護衛隊であっても、こればかりはいけません」

何故(なにゆえ)

「聖女さまはうら若い乙女子、幾ら単なる護衛の兵であろうとも、ご自分の体調やなにかについて子細を知られるのはおいやでしょう」

「しかし」

「ランベール卿、医者にかかったことはおありでしょう。我ら医者は、具合が悪いのはどこですか、と訊くのではありません。一から十まですべてをききだすのです。無論、悩みを打ち明けられることも、おどろおどろしい夢や、淫らな夢の話をされるかたもおいでです。それから、便通であるとか、一日に何回手洗いに立つかなど、尾籠な話にもなります。聖女さまにそれを、あなたがた若い男性の前で話せと?」

「あなた達は若い男性だ」

「ですが、医療に関する知識があり、患者の不調の原因をさぐる為に話を聴くのです。その為に医者は居ます。あなた達は聖女さまをまもる為に居る。ならば、乙女子があなたがたに知られたくないあまりに症状を隠す可能性にも目を向けてください。それに」

 医者はこほんと咳払いする。「これは、若い女性や既婚女性を診る時に説明することですが、わたしは付添人になったばかりの頃、化けものの討伐に従軍し、負傷して以来、子を望むことはできません。聖女さまに不埒なことをするのは、物理的に不可能です」

 ランベールさんは口を半開きにし、それから呻き声をあげ、云った。

「……失礼した」

「いいえ、高貴な女性を診る医者は、似たようなものです」

「それは当人が望んでしたことだ。その……間違いが起こらぬようにと。あなたは違う」

「天がわたしに、高貴な女性を診る医者になれるよう、はやめに手をまわしてくれたのだと考えていますよ」

「とにかく……解った。我らは廊下で待っている」

「聴き耳をたてないようにお願いできますか」

「それは……ああ、解った」


 話がついたようなので、わたしは衝立の影から出る。実際のところ、ランベールさん達には、必要でないのなら聴いてほしくない。伝えるべきか否かの判断は、医者がしてくれるだろう。

 ランベールさんがこちらへ頭を下げた。

「あめのさま、診察を受けて戴きます。我らは廊下で待機していますので、なんぞあればすぐにお呼びを」

 はいと頷いた。ランベールさんを説得した医者が、わたしへお辞儀してから、侍従が用意した椅子へ座る。その隣に、もうひとりの医者が立つ。ランベールさんが出て行き、わたしは医者の向かいへ座った。医者は深々と頭を下げ、ぱっとあげた。

「ドゥピュイスと申します。王立病院から派遣されて参りました。聖女さまの診察をさせて戴きます」

「……宜しくお願いします、ドゥピュイス先生」

 医者は面喰らったらしかった。


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