ツェスブロンの宴 1
ツェスブロン男爵が戻ってきた。エルノアクス侯爵、それに、兵達も一緒だ。ツェスブロン軍以外は軍服を着ている。
わたしは立ち上がって、それを迎えた。ランベールさんもだ。兵達はぎくしゃくした動きで、椅子の近くへ行く。
ランベールさんの向かいには、ツェスブロン男爵、ランベールさんの隣にエルノアクス侯爵が立つ。わたしが着席すると、皆そのようにした。兵達は緊張した面持ちだ。特に、役付でない、エルノアクス軍の弓兵ひとり、ツェスブロン軍の騎馬兵ひとりは、忙しなく瞬き、肩に相当な力がはいっている。
ご馳走が運ばれてきた。皿や水差し、トレイがセットされると、それぞれ、テーブルへ肘をついたり、背凭れへ身を預けたり、項垂れたりする。わたしは暗記しているお祈りの文句を唱えた。
締めの文句を云い、ゴブレットを掴んでひきよせる。傍に控えている従僕が、さっと水を注ぎいれてくれた。
ツェスブロン男爵がナイフとフォークを持ち、ランベールさんがパンを掴み、エルノアクス侯爵が早速ケーキを頬張る。そうなると、兵達も、おずおずとだが食事をはじめる。
わたしに用意されたものは、ふかしたさつまいも、とうもろこしと大豆を炊き込んだご飯にパセリを散らしたもの、根菜類を炒めたもの、なにかしらの野菜を切り刻んだサラダ、きのこのスープ、プラムジュース、水、氷の浮いたミントティー。野菜炒めからは、やっぱり甘い香りがする。これは、こちらのスタンダードなのか、それとも女性向けの味付けなのか、どちらだろう。
指揮官達は前夜同様、それぞれの好みに合わせたらしい食事内容だ。兵達は、七人とも同じだった。魚のムニエルと人参のグラッセ、肉団子のはいったスープ、かごいっぱいのパン、野菜のマリネ、ステーキ、アルコールが数種類。
わたしはスープを飲み、サラダを食べる。吃驚したが飲み込んだ。サラダの味付けには、相当な量の砂糖がつかわれていたのだ。これは、幾らなんでも、食べられない。
匙を置いて、水を飲む。さいわい、炊き込みご飯は穏当な塩味で、それとスープで落ち着いた。
ツェスブロン男爵が云う。「今日は聖女さまのお力で、大きな勝利を掴めました」
「まったくその通り。聖女さまはおそらく、わたしよりも多く、リザードマンを片付けたでしょう」
わたしは口を噤んで、小さく頷くだけだ。ランベールさんが云う。
「ツェスブロン男爵こそ、いつにも増して張り切っていたな。獅子奮迅とはあのことだ」
「いえ……」
「アンデレがあのように暴れるのは毎度のことだろう、ラクールレル隊長」
ツェスブロン男爵は首をすくめる。戦っている時はあんなに元気だったのに、今は俯きがちで、声も小さい。
ツェスブロン男爵は兵達を見遣る。
「君らも相当頑張ったのだろう。今夜は楽にして、大いに楽しみなさい」
「ところで」
エルノアクス侯爵が、従僕の渡した手巾で手を拭う。
「席に着いてから、君達はまったく喋っていないのじゃないか? それとも、喋れない程に腹が減っているのかな」
エルノアクス侯爵が楽しげな笑い声を立てた。
わたしは無理に、微笑んだ。兵達は戸惑っていたものの、徐々に笑顔になる。
わたしの役割はこういうことだろう。兵の士気を上げる。




