本営へ
ランベールさんは、補給部隊と一緒に、と云ったけれど、わたしは意地で馬にのった。聖女が勇敢に戦い、勝つ。王太子殿下が望んでいるのはそういうことだろう。ランベールさんだって解っているだろうに。
わたしがのっていた馬は怪我の程度が酷く、誰かが恢復魔法をかけたが、ひとをのせられる状態ではない。わたしが治療すると云ったが、それをしたら馬車に詰め込むとランベールさんに脅された。
結局、ある程度女性をのせ慣れている馬らしい、ツェスブロン男爵の馬をかりた。
「ありがとうございます」
「いいえ。光栄です」
ツェレスタンさんに応急処置してもらい、なんとか体裁の整ったドレス姿で、ツェスブロン男爵の馬へのる。男爵は配下の兵の馬をかり、わたしの少し後ろにつける。ランベールさんもだ。そうして、本営のある方角へ向かう。
各本営から、馬車が幾つも走ってくる。兵の遺骸を回収する為だ。近くに停まった馬車から、口許を布で覆い、手袋をつけた、若い兵が出てくる。きっと、初年兵は、こう云うのが主な仕事なのだろう。遺骸の回収、補給の手伝い、など、など。
わたしが傍を通ると、若かろうがそうでなかろうが、兵も従僕もお辞儀する。わたしは頷いて、微笑んだ。顔と手は洗ったし、おそろしくはないだろう。
成る丈堂々と、余裕綽々と云った感じで居たい。聖女らしくあるように思うから。
左手から、エルノアクス侯爵とその配下数名が合流した。「聖女さま、ご立派でした」
「どうもありがとうございます」
こちらも誉め言葉を返すべきなのだろうが、出てこない。なので、にっこり、満面の笑みを返す。
ツェスブロン男爵が咳払いした。
「行賞はどこでしましょう」
「聖女さまの本営の前がいいだろう。ラクールレル隊長?」
「わたしもそれが宜しいかと。ただ、あめのさまには一旦戻ってきがえて戴きます」
「ではそのように」
こうしょう……論功行賞か。戦争だもの、必要だ。
わたしはきがえないといけないらしいので、馬を急がせた。
本営に這入る。ついてきたのは、コランタインさんとシェリレさん。ふたりともかぶとを外している。出発した時と比べ、聖女護衛隊の数は幾らか減っていた。誰が欠けたのか、こわくて訊けない。
侍従らがまっさおな顔で迎えてくれる。かえのドレスなどはすでに、侍従達が選んで用意され、お風呂にはお湯もたっぷりだ。ざっと、汗と血を洗い流し、侍従達から〈雫〉をうけとって飲む。身体強化と恢復でごまかして、ドレスを着込む。
白に、金・オレンジ・黄色で幾何学模様がぬいとられた、たっぷりとしたスカート部分のドレスだ。金のビーズも縫いとめられている。袖は七分で、袖口がすぼまっていた。
それに、まっしろのマントを羽織り、金の細いリボンでとめる。銀色のパンプスをはいた。髪は乾かして梳かしただけだ。
「心配致しました」
廊下へ出ると、ついてきた侍従が云う。「補給部隊が……相当激しい戦いだと……」
「ご無事でようございました」
わたしは頷く。わたしは無事だったけれど、きっと大勢の兵が死んだ。よかったとは、云いたくない。
慣れたら云えるようになるのかしら。
用意されている馬にのり、門へ向かう。聖女のドレスは丈夫なのだろうが、上半身に相当裂け目ができていた。鎧だと聖女のイメージに添わないのかもしれないから、上半身の強度を高めてほしいとタリエル先生に頼もうか。
病院には兵達が沢山居た。外のベッドに寝かされている。なかはいっぱいいっぱいなのだろう。行賞が終わったら、治療に参加したい。




