リザードマン戦 3
剣が振り下ろされた。
すんでのところで躱し、短剣を投げつける。リザードマンにかぶとを被る習慣がなくてよかった。頬と思しい辺りに短剣が突き刺さり、リザードマンは後ろ向きに倒れる。
槍が二本襲いかかってくる。魔法をつかって飛び跳ね、避ける。リザードマンの肩を踏みつけてもう一度ジャンプした。
着地にしくじって転がる。でも、そのおかげで首を刎ねられずにすんだ。本当に、なにもかもランベールさんの云う通り。かぶとはあったほうがいい。
両手をついて上体を起こす。ランベールさんがどこに居るか解らない。ツェスブロン男爵がいらだたしげに馬を飛び降り、斧でリザードマンの頭をかち割っている。「ランベール! 寝ているつもりならお前の首も刎ねるぞ!」
その視線の先に、見えた。かぶとのなくなったランベールさんが横たわっているのが。
わたしはなにかに縋りついて立ち上がる。ランベールさんを助けなくちゃ。武器がほしい。
そうして、縋りついたものを見た。
ツェスブロン男爵が投げた斧だった。
斧は、柄まで金属製らしい。重く、ひんやりしている。
でも、持ち上げられた。
わたしは斧を両手で持ち、左脚を軸に半回転する。リザードマンが二匹倒れ、ひとりはぴくりともしない。男爵が叫んでいる。
「聖女さま!」
はっとした。振り向くと、リザードマンがわたしを縦半分にしようと、今にも剣を振り下ろすところだった。
「溶けろ」
魔力が急速に失われたのが解る。
リザードマンは膝から崩れ落ち、見る間に体がどろどろと崩れていく。小さな骨が沢山ある。
魔法文字は、三文字つなげるのが普通だ。それが決まりな訳ではないが、そのほうが安定する。わたしはそれから逸脱したから、魔力を大幅に失った。
でも立っていられる。
身体強化をかけなおし、恢復もして、ランベールさんのほうへと走る。ランベールさんは、剣を拾い、片膝を立てた格好で戦っていた。男爵が畜生と叫んで斧を放り捨て、近場のリザードマンに組み付いてあっさり首を折り、剣を奪う。あのひと、あんなに戦えるの?
走る勢いを殺さずに斧を振りかぶって、ランベールさんと斬り合っているリザードマンに、後ろから袈裟懸けに切りつけた。
リザードマンに、半分くらい切れ目がはいった。まんなかで停まる。爬虫類っぽくて人間っぽいから、背骨はあるのだ。
でも、あっけなく、倒れる。人間と内臓の配置が近いのなら、肺と、心臓辺りを損傷している。程度が重いから、助かるまい。
左から躍りかかってきたリザードマンを、掌から迸る雷で弾き飛ばす。「ランベールさん」
「あなたはどうして、そうやって無茶ばかり……!」
ランベールさんは立ち上がり、ぺっと血を吐いた。わたしは手を伸ばしてその肩に触れ、恢復魔法をかける。
「ありがたい」
「いえ」
ランベールさんは怒った顔で剣を捨て、死んでいるリザードマンから剣を奪った。「〈南大陸〉の鋼も、質が落ちたものだ」
「剣をつくりましょうか」
「そうやって魔力を無駄にするのか?」
わたしは斧を抱くようにして、屈み、ランベールさんが捨てた剣へ触れる。複製なら昨夜散々やった。
巧くいったかどうかはともかく、剣はできた。少し……鍔や柄の装飾がお粗末だが、仕方ない。




