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会見 1


 エルノアクス侯爵はご機嫌だ。「リザードマンの夜襲にはたまげたが、聖女さまが先を切ってくれたとか。我が軍の兵まで士気があがっていますよ」

「しかし……危険はありませんでしたか……」

 ツェスブロン男爵が低声(こごえ)で云う。ランベールさんが云う通り、優しいひとらしい。

 わたしは小さく頷く。

「問題ありません。それより、損害は……?」

「防壁の修復は、魔導士達に急がせています。あめのさまが投石機をすぐに片付けてくれたので、朝までにはなんとか体裁を整えられる。門も、つくりなおさせています」

 ランベールさんは一旦言葉を切り、息を継ぐ。安心させるような声を出す。「……人的被害も、たいしたものではありません。正確な数はまだ報告がありませんが、我が軍の死者は200人程度で済みました」

 200……。

 そんなに死んでしまったのに、たいしたものではないの?


 顔に出ていたのか、ランベールさんは気まずそうに目を逸らす。ツェスブロン男爵が感嘆の声をあげた。

「驚異的だ。リザードマンに突然攻め込まれて、死者が三桁におさまるとは。こちらの軍など、死者は今のところ48人です。朝までに正確な数が解ったとしても、ふた桁におさまるでしょう。やはり、聖女さまがいらっしゃると、心強い」

「まったく、アンデレの云う通りだ。我が軍も死者は30人に満たない。最初の戦闘が大勝だと、兵は活気づく。暫くは統率も楽にとれるだろう。聖女さまがおいでなら、脱走するような不届き者は出ぬだろうし」

 あわせて300人近い兵が死んだ。そうか。そして多分、明日も明後日も、その次も、戦闘が続く限りひとは死ぬ。

 わたしは、動揺が顔に出ないようにしようとする。きっと無理だけど。

 こういう時は笑って喜べばいいのだろうか。死者が少なかったと。

 聖女ならばそうすべきだろう。士気が落ちるような行動はとるべきでない。うじうじと湿っぽい聖女なんて、兵達は喜ぶまい。それに、怪しまれるのでは? 聖女らしくないと。

 わたしは聖女らしさにこだわっている。それは自分の為ではなくて、ランベールさんに迷惑をかけたくなくて……。

 いいわけかしら。自分が、聖女として、敬われていたい?


 わたしはぶるっと震える。春になったが、流石に深夜は寒い。それに、湯上がりでまともに髪も乾かさずに出てきて、ドレスみたいだけれど単なる下着に、春ものの外套なのだ。寒い。

「リザードマンの、……退却路については?」

「兵を送って調べさせています」

 ランベールさんが答える。「あのような隧道は、昨日まではなかったと聴きましたが」

「ああ。あのようなものがあったら報告がある筈だ」

「途中まで掘り進めていたのでしょう。ピルバグが邪魔で、まともに偵察もできていません」

「スニーキーワームでもつれてきたのでは?」

「それはありそうな話だ……」

 男性陣ははやくちで言葉を交わし、それからエルノアクス侯爵がこちらを向く。

「聖女さま、お疲れでしょう。事後処理は我らに任せ、お休みください」

「いえ」

 わたしは頭を振る。「わたしも関わっていますから。それに、明日のことも、聴きたいので」

「明日ですか?」

 エルノアクス侯爵が戸惑い顔になる。ツェスブロン男爵が、心配そうに云う。

「聖女さまの初陣は、思いがけず今日になってしまいましたし、明日は休まれては……」

 そういう意味ではない。わたしはもう一度、頭を振る。

「いいえ。あのような要素が解ったら、作戦になにか変更があるのではありませんか? 馬が隧道に脚をとられることも考えられるのでは?」


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