夜襲 7
魔力の供給があると、複製のスピードは上がった。〈雫〉は高速で減っていくが、比例して矢の溜まる速度も上がっている。
その箱もからっぽになるまで矢を出すと、遠くのほうで大きな声があがり、同時になにか重たいものが動く音が響いた。扉を開けた、みたいだ。
「とびら、あけて、だいじょうぶなんですか」
「援軍が来たのです。この際、追い払うのでなく、殲滅してしまうのがいいと判断したのでしょう」
コランタインさんは淡々と云って、矢をまとめ続ける。こちらも打って出て、応戦するとなれば、死傷者が出ることは絶対だ。誰も死なずに勝つなんて不可能だと、理解できている。誰も死なせたくないなら、和平だとか、同盟だとか、そう云うのでそもそも戦わないという手段しかない。そして化けものとはそれができない。戦うしかない。
死者は出る。それは、どうしようもない。なのに、わたしは動揺した。魔法が途切れるくらいに。
コランタインさんが〈雫〉のはいった箱をまた、運んでくる。わたしは矢をつくり続けている。魔法でつくったからといって、なくなりはしない。だから、今つかわなくても、明日でも明後日でもつかう場面はある。
戦闘の音はどんどん高まっていく。弓兵や、熱湯を注ぐ兵達の動きが、段々とゆっくりになっていった。はしごで防壁を越えようとするリザードマンが減ったのだ。
爆発音や、もの凄い風など、下では激しい戦闘がくりひろげられているようだ。ランベールさんの姿は見えないから、もしかして降りていったのではないか、と不安になる。とても不安に。
防壁は高いから、投石機がなくなった今、リザードマンからの攻撃が届くことはほとんどない。けれど、なにかしらの魔法であるとか、石であるとかが飛んできて、兵は負傷している。負傷兵は、自力でさがれる場合は自力で、そうでない場合は誰かが引き摺って、内側の縁の傍で待機。その後、ほかの兵の手をかりて、内側の防壁まで運ばれ、そちらで治療されている。怪我の程度が重いと、防壁から降ろされていた。本営の中央にある、病院へ行くのだろう。
矢束が積み上がり、矢をとりに来る兵の数も減った。わたしは立ち上がる。
「怪我人を治療します」
コランタインさんは一瞬、停めようとしたみたいだったが、しかし、〈雫〉のはいった箱を手にして頷いた。
縁に頭を凭せかけ、おびただしい血の流れる上腕をおさえて呻く兵が、最初だ。わたしは手をかざして兵を治療し、次の兵へと走っていく。
防壁の縁を越えてくる攻撃を食らったからか、上半身を負傷している兵が多かった。上腕の内側や、手、頬、頭など。鎧のすきまへ矢がつきたっていたり、兜を別の攻撃で飛ばされて、直後に追撃があった、など、防具で覆いきれない部分に怪我をしているのだ。
防壁の上を行ったり来たり、走りまわって治療を続けた。しかし、恢復魔法に反応を示さない兵も居る。眉間やこめかみに矢がつきたっていたり、首が外れかけている兵、そうかと思えばまったく外傷がないように見える兵も居る。
でもみんな、死んでいた。
ランベールさんの云っていたことの意味が解る気がする。普通、恢復魔法はから打ちできないのに、魔力が減る感じがするのだ。これは、単純に、わたしがショックをうけていると云うことだと思う。死体を目の前にして。もう助からない、命が手の指の間をすり抜けていくみたいな無力感に拠って。




