憤り 2
「聖女さまは気がたっておいでだ。〈雫〉を用意しろ」
兵ふたりは、怒気をはらんだランベールさんの声に首をすくめる。傷痕のひとが持っているものへ、ポニーテールのひとが、玉貨をいれた。
目を細めてよく見てみると、がらす玉のようなものは上部に、四角く切りとられたみたいに穴が三箇所開いている。なかには〈雫〉が詰まっていた。〈雫〉は放っておいたら消えてなくなるのじゃなかった?
がらす玉のようなものは、底に土台がついている。土台部分は色がらすみたいに見えた。ランベールさんがポニーテールのひとへゴブレットを投げ渡した。傷痕のひとがこちらへ歩いてきて、ランベールさんへがらす玉を渡す。ランベールさんはがらす玉をうけとって、わたしの頭上でさかしまにして振る。
〈雫〉が降り注いだ。わたしの体にぶつかると消える。痛みどころか、感覚はあまりない。たんぽぽの綿毛が触れたくらい。
兵ふたりが啞然としていた。がらす玉は、暫く振るとなにも出なくなった。なかにはまだたっぷり〈雫〉が詰まっているのに、振っても出ないのだ。
ランベールさんは腹を立てた様子で、がらす玉を傷痕のひとへ返した。玉貨をいれたら〈雫〉が出てくるということは、あれは、コンバーターだろう。
ランベールさんが喚く。「マーリス、魔力が凝りはじめたらすぐに報せるよう伝えろ。ナタナエール、聖女さまに……なにか、甘いものでも、用意しろ」
最後のほうは怒りを抑えるみたいな声だった。
傷痕のひとが出て行った。ポニーテールのひとは、ゴブレットに手をかざしてぶつぶつ云う。わたしはクッションを掴み、睨む。いらいらが収まらない。
「聖女さま……」ポニーテールの、ナタナエールさん、が、ベッドの傍に両膝をついた。「白苺酒です」
わたしは横目でゴブレットを見る。なかには、透明な液体が充ちていた。かすかにアルコールが漂ってくる。
「要りません」
顔を背けた。
ナタナエールさんは、怯えたみたいにゴブレットをひっこめ、頭を下げる。ランベールさんが溜め息を吐いた。
「強情な。抵抗したとてエーヴェはよみがえらぬ」
「隊長!」
「さっきの蛇。なんなんですか」
ランベールさんを睨みつけた。ランベールさんは睨み返してくる。
「サーペント。分割川には多く生息している。目をつけた獲物を追う。ややこしいことになる前に倒そうとしたが、普通あれだけの数が居るものではない」
「まだ沢山……?」
「幾らも居る。サーペントだけではなく、化けものが」
モンスター、ということか。ゲームじみている。
「わたしも戦います」
ランベールさんはしかめ面をし、ナタナエールさんは目を瞠る。
「だから、部屋に閉じこめないで」
「……あなたは随分疲れているようだ。戦いに慣れていないのでしょう。とにかく一度眠ってください」
「わたしも」
「王室護衛隊は聖女の護衛を任されている。前線に立たせるばかが居ると?」
「なら怪我人を治療します」
睨み合う。
目を逸らして、ランベールさんが云った。
「ナタナエール。出て行け」
「え」
「二度云わせる気か」
ナタナエールさんが立ち上がり、心配そうにこちらを見ながら出て行く。
扉が閉まった。ランベールさんがつかつか歩いて行って、錠を下ろす。




