戦場の宴 4
まったく解らない話が続くので、置物になるしかない。とりあえず、覚えられることは覚えておこうと決心する。トラッププランツというのは、名前からして、植物っぽいモンスターなのだろうな。
さつまいもの蜜煮は甘過ぎ、あまり食べられない。ぶどうやいちじくも同様。それ以外は、大体口に合った。ただ、野菜の炒めものは、どうも砂糖をぶち込んでいるらしく、べったり甘い。
豆の煮込みとサフランライスをもそもそ食べていると、エルノアクス侯爵が唐突に云った。
「しかし、斯様に美しい女人が聖女さまとは、まったく我らは恵まれている」
サフランライスが咽に詰まるところだった。わたしは匙を置く。
エルノアクス侯爵の言葉に、ツェスブロン男爵が頷く。「兵の士気が上がっています。巧く統率をとれるでしょう」
「まったくもってその通りだ。アンデレ、聖女さまがいらした時の、師団長達の顔を見せてやりたかった」
「聖女さまが通った後の前庭なら拝見しました。女中達は侮辱されたと感じているでしょう」
「うむ、問題ならないとも。女中達は弁えているし、兵らにも云ってきかせた。なにより彼女達には、特別に手当を出しているさ」
ランベールさんが音を立ててゴブレットを置いた。
「不埒なことを考える者が出ぬよう、配慮戴きたい」
「勿論……しかし、聖女さまは国の宝。簡単にお近付きになれると思う者はあるまい」
「どのようなことでも考えつく愚か者は居るのです。こちらも警護を篤くしていますが、油断はならぬ」
エルノアクス侯爵は戸惑ったふう。ツェスブロン男爵が、さっと口をはさんだ。
「ラクールレル隊長も、任務の重さに少々緊張しておいでなのでしょう。数百年ぶりの聖女護衛隊隊長ですから、エルノアクス侯爵」
「ああ、そうだった。配慮が足りていなかったな。兵らには、もう一度、きつく云っておこう」
エルノアクス侯爵がにこっとして約束すると、ランベールさんは無表情で頷いた。
その後、またしても化けものやなんかの話があり、ある程度食糧が減ったところで、エルノアクス侯爵が云う。
「聖女さまに、師団長達を目通りさせても?」
「わたしが同席できるのならば」
「勿論、師団長達は、聖女護衛隊隊長にも会いたいだろうさ。アンデレ、君も来給え」
エルノアクス侯爵が立ち上がり、わたし達もそうした。ツェスブロン男爵は、だいぶ小さくなった肉の塊へ一瞬顔を向けた。名残惜しそうに。
大広間には、師団長、連隊長、大隊長辺りまでが這入っていいようで、エルノアクスの本営であることを考慮してか、ツェスブロン軍や王領警備部隊の兵は数が少なかった。
わたしがきざはしを降りていくと、女性達がさーっと出ていく。聖女と女性の接触厳禁、という王命は、ここまで届いているようだ。
師団長達はびしっと背筋を伸ばして、わたし達を迎えてくれた。エルノアクス軍の師団長は、錦のたすきを掛け、外套の袖口にぐるりと銀糸のぬいとりがある。「閣下」
「うむ、そうかたくなるな。普段は閣下などと、口が裂けても呼ばぬくせに」
エルノアクス侯爵が軽く笑い、わたし達を示した。
「ツェスブロン男爵、ラクールレル聖女護衛隊隊長、そして、聖女さまだ」
師団長達は左手を胸にあててお辞儀する。ツェスブロン男爵は左手を胸にあてて一瞬頭を下げ、ランベールさんは左手を胸にあてるだけ、わたしはなにもしなかった。




