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野宿 2


 聖女が兵や侍従をひきつれて猛然と歩いてくる、というのは、軽い恐慌状態を来すのに充分だった。わたしが近付いていくと、料理をしようとしていたひと達が、軒並み左手を胸にあてて頭を下げる。

「なにかやります」わたしは急き込んで云う。「お手伝い」

「あめのさま、そのようなことを仰言っては、料理人が困ります」

 でも、なにかしたい。それに、食べたいものを調理できる。ふかしたお芋と野菜、豆、だけの食事には、流石に飽きている。

 料理人と思しい、くらめの色の服で袖をまくりあげた男性が、少しだけ顔を上げた。空がくらく、焚き火はオレンジ色なので、服の色は判別しかねる。

 そのひとはちらっとわたしを見て、怯えたみたいに再び頭を下げる。随行の料理人は、五つ葉の城に詰めているひと達と、兵営から来たひと達。このひとは、どちらだろう。


 わたしは傍らのランベールさんへ目を向ける。ランベールさんは渋面だったが、わたしがそのまま見詰めていると、溜め息を吐いて目を逸らした。

「……聖女さまが料理をしたいと仰せだ。お前達、手をかすように」

 わたしがお手伝いしたいのだけれど……。

 だが、料理人や従僕達が、はい、と返事したので、どうしようもない。

 わたしは食材のはいった箱へ近付いて、覗きこんだ。その箱は、お肉類の箱だった。ベーコンや、ハム、干し肉、腸詰めなどがはいっている。

 少し離れた位置にある箱ふたつには、野菜類。わたしが居るからか、さつまいもが沢山。あとは、人参、きのこ、ねぎやたまねぎ、生姜などの香味野菜。

 (たし)か、パン食だったけれど、パンは影も形もない。振り返る。

「パンは……?」

 料理人がかしこまった。「得意な者が、生じさせます」

 成程。


 調理器具はすべてつかえる状態だし、なにをつくってもいい、必要な食材はすぐに生じさせる、とのこと。でも、醤油や味噌は、こっちのひとは知らないだろう。お米はどうなのかしら?

「あの。お米はあります?」

 訊いてみると、目を逸らされた。ないのだろう。だが、すぐつくります、ともならない。もしかして、知らないのかなあ。

 調理前の食材を出す程度ならゆるされている。「人参をいちょう切りに……」

 わたしは袖をまくって手を洗い、平たい鍋のなかにお米を出す。ランベールさんがなにか云いたそうにしたが、しかしなにも云わない。


 お米を平らに均したら、塩をふり、お水をいれる。サフランを散らして、その上に、いちょう切りの人参、一口大にカットしたアスパラガス、斜めそぎ切りのパプリカ、大豆、プチトマト、手で裂いたきのこ類をどっさりのせた。人参ときのこ以外は、魔法で出して。

 植物油を振りかけて、火にかける。焚き火には網というか、鍋を置けるようなものが設置されていて、そこに鍋を置いてもらった。後は炊くだけ。動物性食品を省いたパエリヤだ。

 わたしだけが食べる訳ではないので、もう片方のお鍋では、腸詰めとベーコンのはいったスープをつくった。

 にんにくを植物油で軽く炒め、乱切りの人参、たまねぎ、キャベツ、きのこを投入。塩こしょうをしてたまねぎがしんなりするまで炒め、水と腸詰め、一口大に切ったベーコンを加え、蓋をして暫く煮込む。一時間くらいほしいところだけれど、三十分も煮込めば、味がなじんでまとまる。もとの世界なら、鍋帽子に頼っていた。

 あとは、パンを出してもらえば、それでいい。たんぱく質、炭水化物、脂質。ちゃんととれる。


 パエリヤはちゃんと炊けた。ランベールさんの眉間の皺がそろそろ大変なことになっているので、わたしは炊き上がったパエリヤを一人前もらい、テントへ退散した。


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