眠れない時は
水分補給と、トイレ休憩をはさみ、次は槍の訓練だ。
槍は、こちらの世界、もしくは〈陽光の王国〉では標準的なサイズのもの。長さ、240cmくらい。重さは、7kg程度。柄の部分が樫木でできていて、重たい。
槍は凄くしなる。だから、しなるのも計算にいれて動かさないといけない。それってとても、難しい。
重さに関しては身体強化でのりきり、持てない、ということはない。のだが、振りまわすのは辛かった。随分慣れてきて、ついでに筋肉もついたのか、今は少しなら振りまわせる。少しだけ。
剣にしても、槍にしても、魔法を気軽につかえない場所、もしくは魔力を温存しておきたい時に役に立つ。化けものにしても、敵国の兵にしても、こちらが疲れていようが魔力が底をつきそうだろうが、おかまいなしなのだ。だから、それに備えておかないといけない。
ただ、わたしが武器を持って戦うのは、本当に最後の手段だ、とランベールさんに念押しされていた。緊急の場合のみだと。
この前みたいに、襲撃されてさらわれそうになるのは、緊急だろう。だからわたしは、槍でも剣でも、襲撃前より身をいれた。
槍の次は剣で、その後が魔法だ。訓練は日暮れまで続き、わたしは汗だくになって五つ葉の城へ戻る。厩から来ていた馬と、従僕、師匠は厩へ戻っていき、公主護衛隊も公主殿下のもとへ帰っていった。
気温があがっていた。明日には春になるのだろう。それとも、もう春なのかしら。訓練の後、寒さに震えることはない。下位コンバーターを見る機会がないので、解らなかった。
疲れた体をお風呂につかって解す。ナタナエールさんのつくった香油を垂らした、甘い香りのお風呂だ。それにはいると、髪にいい香りがつく。
身体強化と、恢復。ふたつの魔法をかけて、欠伸をしながらお風呂を出た。ちょっと痩せたかな、と思ったのだけれど、そうでもないみたい。 風を起こして髪を乾かすのも慣れた。慣れると、ドライヤよりも簡単に風量を調節できて、寧ろ楽だ。
櫛でとかしながら髪を乾かし、なんとか体裁を整える。四六時中、他人に見張られる生活だが、気にしなければ気にならない。単に、ランベールさんが信頼できるひとだから、心配していないだけかもしれない。
ご飯を食べて、眠った。
……のだけれど、よなかに目が覚めてしまった。こういう時は、鐘楼へのぼる。このところ、いつもそうだ。
一緒に来てくれるのはランベールさんだけで、特に会話らしい会話もなく、月を眺めながらはちみつのはいったハーブティーを飲むだけ。一度、今度の遠征はかなり大軍で行くことになる、みたいなことは云われたけれど、ぼんやりしていたからか、具体的な数字は忘れてしまった。ただ、相当大人数だな、と感じたので、多いのだろう。
ベッドを降りると、気配で解ったか、兵が廊下へ出て行った。ランベールさんを呼びに行ったのだ。訓練の時もランベールさんは居るし、わたしが眠れないと付き合ってくれるのだから、相当負担をかけている。申し訳なくはあるが、眠れない時に鐘楼へのぼるのは、安心するのだ。なんだかとても。わたし、高いところが好きなのだろうか?
わたしが、色々と準備をする間に、ランベールさんも準備をすませていた。岡持ちみたいなのを持ってやってくる。深夜の鐘楼で飲むハーブティーは、ランベールさんが手ずから淹れてくれたものだ。それも、魔法でではなく、ハーブをつかって、実際に。
灯を用意するのはわたしだ。魔法で光を出し、先導させる。魔法の練習にもなるので、咎められはしない。




