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王立病院 4


「おはよ、エウラリエさん」

「おはよう、エール」

 第三棟の一階へは、廊下を歩き、渡り廊下を行けばすぐだ。出入り口のすぐ傍にある、付添人詰所に這入る。そこでは付添人がふたり、患者の様子を羊皮紙へ書きこみ、戸棚へ仕舞いこんでいた。

 こうやって患者ひとりひとりの状態をしっかり観察し、くわしく書きつけておけば、容態が悪くなった時にどうして悪くなったのかの推察ができる。それに、医者や付添人が突然かわっても、新しい医者なり付添人なりがこれさえ読めば、誰がどんな状態で、どういう薬を処方され、苦手としている食べものがなんなのか、どういった要望を出してきたのか、すぐに解る。

 これも、昔の聖女さまが伝えた方法だ。聖女さまは素晴らしいのだ。〈器〉が大きく、魔力を扱うのに優れているだけでなく、異界の知識をこの世界に役立ててくれる。尋常なかたではないのだ。


 付添人のひとりが、手を洗い、ワゴンの準備をする。金属製のワゴンには、木製の車輪が付いていて、上にはトレイをふたつまで置ける。プロスペールは礼を云って、ワゴンの上にトレイを置いた。「俺が配ってくるよ」

「ううん。二番ベッドの患者さん、男が近寄ると怯えるのよ。わたしがやるから、心配しないで」

「そう……」

 なにか手伝いたいのだが、大概、ものを運ぶとか、誰かへ伝言を届けに走るとか、だ。勿論それだって立派な仕事だし、プロスペールが居ないと情報伝達がゆっくりになるだろう。だが、プロスペールはそんなふうには思えない。


 ワゴンを押して付添人のひとりが出ていき、プロスペールはしょんぼりと、厨房へ戻る。

 すると、話し声が聴こえてきた。

 プロスペールはもれ聴こえてくる会話を、廊下に立ったまま聴く。ローブが汚れるから、壁や扉にへばりつくことはない。

「じゃあ……聖女さまの、ご友人がたが……」

「ん。五つ葉の城で聴いたから、間違いないわ」

「そうか。異界のかたがいらしてくれるんなら、百人力だぜ」

 先生の弾んだ声に、プロスペールは笑顔になる。聖女さまのご友人が、来てくれるみたいだ。聖女さまを騙らせているなら、王太子は許せないが、異界から招聘されたひと達に罪はない。来てくれて、治療を手伝ってくれるのなら、凄く助かる。

「しかし、ヴィヴィエナ、戻ってくれたのはありがたいが、君は軍営所属になったんじゃなかったか?」

 先生の声はまだ弾んでいるが、応じた声は不満げだった。「外されたの。王太子殿下は聖女さまのことに関して、相当神経質になっているわ。剣聖さまの治療に参加していたんだけれど、追い出されてしまったの」

「剣聖さまに、なにか?」

 剣聖さま……孤児院で、子ども達が話す、剣聖さま?


 プロスペールは扉にくっつきたいのを我慢する。壁や扉は不潔だから、寄りかかったりしてはいけないと、一番最初にうけた注意はそれだった。付添人は、一日に何度も、扉の把手を蒸留酒で拭いて綺麗にする。

 剣聖さまといえば、異教徒の母を持ちながら、〈重たい炎(ラァ・スプロ)〉への信仰篤く、剣と魔法で一軍を砕くと云われている。働きはめざましく、それもすべて、公主殿下の降嫁を求めてのことだと噂されていた。孤児院の子どもらは、そのお祝いの準備なら、いつだってできている。

「聖女さまが襲われて、それを庇って、毒をうけなすったの」

「なんて……」

 聖女さまを庇う?

 魔法文字をすべて認識できる聖女さまが、誰かに庇われたりするのか。

 いや……〈遠く(ミィト)〉は、化けものも戦もないところだ。戦い慣れてらっしゃらないのかもしれない。けれど……偽者だったら……。


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