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王立病院 1


 王立病院、王立孤児院は、朝でも昼でも夜でも、深夜でも、玄関に錠を下ろすことはない。王立病院には常に、ふたりの医者と、十人程度の付添人がいる。

 ふたつの施設はひとつの敷地に建っている。少し離れているが、子どものあしでも疲れない距離だ。

「先生達、おはよう。今日も魔力雨だよ」

 孤児院で寝起きしているプロスペールは、そう云いながら王立病院の勝手口を潜った。すぐに、流しで手を洗い、用意されている丈の短い白いローブを羽織る。それから、もう一度手を洗った。

 プロスペールは今年で十三歳になる。父親は〈影の左の王国(ルテ・ツァ)〉との戦で亡くし、母は王立病院で世話になっている。兄と姉が居るが、どちらも行方は知れない。プロスペール自身は、恢復(かいふく)魔法をつかえる為、王立病院で付添人をしていた。いや、〈器〉が小さくて、恢復(かいふく)魔法を何回もつかえないから、付添人みならいだ。


 先生はひとりしか居らず、プロスペールを見もしなかった。薬を煎じるのに忙しいのだ。「おはよう、エール。魔力雨が三日も続くのはめずらしいな」

「聖女さまのご加護じゃないかって、みんな喜んでる」

 プロスペールは、先生の横に立つ。「俺が見てるよ。先生は回診があるでしょ」

「いや、ラッフォンがやってる……そうか、聖女さまのご加護ね」

 先生は溜め息を吐いて、数歩下がり、椅子へ腰掛けた。プロスペールはやかんのなかを見て、頷く。恢復(かいふく)魔法は、病気に対しては利き目がよくない。本当なら解毒が必要なのだそうだ。でも、解毒をしないで恢復(かいふく)するしかなくて、医者も付添人も疲れる。それを少しでも軽減する為に、解毒作用のある薬用植物を煎じて、或いは細かくひいて、患者に()ませる。ただこれは、病気によってつかっていい薬用植物と、そうでないものがあり、その辺をきちんと理解できないと医者に昇格できない。

 解毒の魔法を完璧につかえれば、薬用植物にうとくても、医者になれるそうだが……プロスペールは、話でしかそれを知らなかった。何年前に居たなんとか先生がそうだったらしい、とか、クロジェ男爵領にはそういう医者が居るとか、今度の化けもの討伐にそういう医者が従軍するらしいとか。要するに、無責任な噂だ。


 先生が立ち上がり、プロスペールが確認したのとは別のやかんを掴んで、中身を漉した。金属製のボウルに、澄んだ茶色の液体が溜まる。厨房、というか、薬をつくる為のこの部屋には、つくりつけの戸棚があるのだが、その中身は、ボウルとか、ろうととか、薬をつくるのに便利な道具達だ。それらは、ずっと昔に降臨した聖女さまがはじめつかっていて、みんなが真似してつくり、つかうようになった。

 その聖女さまは、ボウルにはこの金属がいいと、ステンレスというものをつくりだされたそうだ。ステンレスは鋼のようにかたいが、錆がつきにくい。ステンレスを生じさせることができたら、俺ももう少し役に立てるんだけどなあ、とプロスペールは思う。聖女さまがつくりだした金属は、ステンレスだけではないが、どれも生じさせるのが難しい。金属(ルシャ)あらわれろ(メット)をつかえるだけで、簡単につくれるものではないのだ。勿論、得意な者も居るが。

 医者がレードルをつかって、湯薬をマグへ移しはじめた。ぼーっとしていたプロスペールは、それを手伝う。

「これは第三棟の、一階へ」

「うん」

「聖女さまの加護もいいけどな、エール」

「うん?」

「どうせ、聖女さまは、こんなところへは来てくださらない。今の情況じゃあな。だから、あまりがっかりするなよ」


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