表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

134/1167

後悔 1


 ランベールさんはまた、強情を張るなとわたしを叱るだろう。

 でも憤ろしいのだ。ただ、怯えて、震えて、なにもできなかったわたし自身に、とてもとても腹がたつ。それに、この、聖女という、わたしの立場のばかばかしさにも。

 ランベールさんに庇われ、まもられて、縮こまっている場合ではなかった。魔法をつかえる筈なのに、恐怖で身がすくんで動けないなんて、そんなのただのばかだ、まぬけだ。わたしがやればよかった。ランベールさんにしても、〈陽光の王国(スプロ・ルオ)〉王家にしても、襲撃者達にしても、わたしなら軍のひとつふたつ壊滅させられると考えているのだ。

 単に、そうすればよかった。ランベールさんが無茶をする前に、わたしが殺せばよかった。だって、わたしの問題だから。わたしを目当てに行われたことだ。それで、ランベールさんを、あんなに……。


 瞬く。「ほかに、怪我をしたひとは?」

「あめのさま、なんの心配も要りません」

 椅子のすぐ横に両膝をついたコランタインさんが、諭すように云う。わたしはゆっくりそちらへ顔を向ける。「隊長には医者と付添人がふたりずつついています。わたしとエーミレが怪我をしましたが、掠り傷ですし、すでに治療……」

 目が合うとコランタインさんは黙る。わたしは云う。

「あなた達は聖女護衛隊の筈です」

「……は、はい」

「わたしは聖女です。あなた達の情況を把握する()()()()()()()

 コランタインさんは口を噤み、小さく頷く。わたしも頷いた。怒りというのは、どうしてこう、わたしを動かしてくれるのだろう。

 もっとはやく怒ることができていたら、ランベールさんを助けられた。


 怪我人は、三人。エーミレさん、コランタインさん、ランベールさん。治療が終わっていないのはランベールさんだけ。

 襲撃者は、全部で十三人。そのうちふたりが逃げ、三人が掴まって軍営へ引っ立てられて尋問中。残りの八人は死んだ。内訳は、四人がランベールさんに殺され、三人は兵達が殺し、ひとりは捕まるのを防ぐ為に自死。

 わたしは半分眠っていたのと、霧で視界が悪かったのとで、情況をはっきりとは把握できていなかった。

 まず、ランタンを持っていたエーミレさんとコランタインさんが不意を打たれ、腕を負傷した。ランタンが落ちて消えると同時にわたしがさらわれ、兵達は襲撃者に囲まれて魔法や武器での攻撃をうけた。

 しかし、聖女護衛隊は突然の戦闘にも怯まず、数人切って捨てた。怪我をした襲撃者は、尋問の為に、ランタンを持って戻った侍従が捕縛。その時、わたしが光を打ち上げたので、ランベールさんが単独で飛び出した。

「隊長はとても……焦っておいでで、我らを置いてあめのさまを追われて……あのような、無理なことをするひとではないのですが」

 コランタインさんは目を伏せる。ランベールさんは真面目なひとだ。職務を全うしようとする気持ちが強い。


 その後は、わたしも知っている。わたしに追いついたランベールさんは、地面を這いつくばる憐れな聖女を確保し、左腕を鈍な聖女をまもる為につかって、右腕一本で戦った。そして、三人を殺したけれど、かわりに大怪我をした。

 わたしのまぬけさがよく解る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ