後悔 1
ランベールさんはまた、強情を張るなとわたしを叱るだろう。
でも憤ろしいのだ。ただ、怯えて、震えて、なにもできなかったわたし自身に、とてもとても腹がたつ。それに、この、聖女という、わたしの立場のばかばかしさにも。
ランベールさんに庇われ、まもられて、縮こまっている場合ではなかった。魔法をつかえる筈なのに、恐怖で身がすくんで動けないなんて、そんなのただのばかだ、まぬけだ。わたしがやればよかった。ランベールさんにしても、〈陽光の王国〉王家にしても、襲撃者達にしても、わたしなら軍のひとつふたつ壊滅させられると考えているのだ。
単に、そうすればよかった。ランベールさんが無茶をする前に、わたしが殺せばよかった。だって、わたしの問題だから。わたしを目当てに行われたことだ。それで、ランベールさんを、あんなに……。
瞬く。「ほかに、怪我をしたひとは?」
「あめのさま、なんの心配も要りません」
椅子のすぐ横に両膝をついたコランタインさんが、諭すように云う。わたしはゆっくりそちらへ顔を向ける。「隊長には医者と付添人がふたりずつついています。わたしとエーミレが怪我をしましたが、掠り傷ですし、すでに治療……」
目が合うとコランタインさんは黙る。わたしは云う。
「あなた達は聖女護衛隊の筈です」
「……は、はい」
「わたしは聖女です。あなた達の情況を把握する必要があります」
コランタインさんは口を噤み、小さく頷く。わたしも頷いた。怒りというのは、どうしてこう、わたしを動かしてくれるのだろう。
もっとはやく怒ることができていたら、ランベールさんを助けられた。
怪我人は、三人。エーミレさん、コランタインさん、ランベールさん。治療が終わっていないのはランベールさんだけ。
襲撃者は、全部で十三人。そのうちふたりが逃げ、三人が掴まって軍営へ引っ立てられて尋問中。残りの八人は死んだ。内訳は、四人がランベールさんに殺され、三人は兵達が殺し、ひとりは捕まるのを防ぐ為に自死。
わたしは半分眠っていたのと、霧で視界が悪かったのとで、情況をはっきりとは把握できていなかった。
まず、ランタンを持っていたエーミレさんとコランタインさんが不意を打たれ、腕を負傷した。ランタンが落ちて消えると同時にわたしがさらわれ、兵達は襲撃者に囲まれて魔法や武器での攻撃をうけた。
しかし、聖女護衛隊は突然の戦闘にも怯まず、数人切って捨てた。怪我をした襲撃者は、尋問の為に、ランタンを持って戻った侍従が捕縛。その時、わたしが光を打ち上げたので、ランベールさんが単独で飛び出した。
「隊長はとても……焦っておいでで、我らを置いてあめのさまを追われて……あのような、無理なことをするひとではないのですが」
コランタインさんは目を伏せる。ランベールさんは真面目なひとだ。職務を全うしようとする気持ちが強い。
その後は、わたしも知っている。わたしに追いついたランベールさんは、地面を這いつくばる憐れな聖女を確保し、左腕を鈍な聖女をまもる為につかって、右腕一本で戦った。そして、三人を殺したけれど、かわりに大怪我をした。
わたしのまぬけさがよく解る。




