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襲撃後 1


 ぶるぶると震えがとまらない。おそるおそる目を開ける。

 ランベールさんは荒い息で、両膝をつき、剣を支えにしている。けれど、わたしをぎゅっと抱き寄せているのはかわらない。わたしは雪の上に座って、寒さと恐怖で震えている。化けものと戦うのは、こわくてもできたのに、人間は化けものよりもずっとこわくて、なにもできなかった。

 わたしが打ち上げた光はまだ空を漂っていた。

 ランベールさんは顔に、血をつけていた。血の飛沫を。霧みたいに細かい血を。

「大丈夫か」

 ランベールさんは呻くように云い、わたしを片腕に抱いたまま立ち上がる。わたしはあしに力がはいらず、ランベールさんの外套から手を離すこともできない。多分、ランベールさんは怪我をしている。治してあげないといけない。

 だが、その前に、ランベールさんは自分で恢復(かいふく)魔法をつかった。霧がうすくなる。そうだ、さっきの……襲いかかってきたひと達は、どうなったんだろう。

 四辺を見て、息をのんだ。ひとが倒れている。


 剣が三振り落ちている。雪が血で赤く染まっている。霧が晴れたら、月影がさして、それらがはっきり見える。多分……あの出血量では、死んでいる。

 ランベールさんは呻き、わたしの体を揺さぶって、気をひこうとしている。「まじまじと見るものではない」

 声が出ない。答えることはできない。ただ、死体を見ている。

「こちらを向け」

 ランベールさんは掠れた、小さな声で云う。「わたしを見ていろ」

 目が捉えた。あれは、首だ。首を刎ねとばされた死体。したたり続ける血。血と土で汚れた、踏み荒らされた雪。

 ランベールさんが舌打ちして、剣を放り捨てた。わたしはゆっくりとそれへ向く。

 ランベールさんはベルトに通したポーチから玉貨を掴みだした。上位コンバーターで兌換した〈雫〉を、口へ詰め込む。

「酷い顔だな」

 ランベールさんはわたしを見てちょっと笑った。三人分死体が転がっているのに。

「あなたの立場とはこういうものだ。襲撃され、さらわれそうになる。或いは殺されそうに。我々はそれをまもる。だから、ひとりでうろつかれると、困る。相当に」


 わたしは口を半開きにしてそれを聴いている。「……今のは、他国の差し金だろう。あなたをさらおうとした。殺すつもりならすぐにやっていた」

「どうして」

「どうして? あなたが戦力になるからだ。あなたに、倒れるまで魔法をつかわせれば、軍のひとつふたつ簡単に瓦解する。今の情勢では、ほとんどの国の軍は、大半があり合わせの兵だから。基準に届かない者をつかうしかないからな」

 わたしはまだ震えている。

 ランベールさんは掠れた笑い声をたてる。

「不愉快な話だな。まったくもって」

「……あの、怪我、」

「問題ない」

 ランベールさんはそう云ったけれど、まだ息は荒く、それにまっすぐ立っていない。あしを痛めたみたいだ。

 魔法の光が消えた。月明かりだけだ。ランベールさんは呻く。

「それよりも、あなたのご友人達が無事か、確認せねば……聖女とともに招聘された者も、大きな〈器〉を持つ。聖女よりも、厳重にまもられてはいないから、寧ろ、狙い目だ」

 ぞっとした。わたしは言葉を失う。阿竹くん達が……。

 ランベールさんは深呼吸して、もう一度玉貨を兌換した。口へ含む。それから袖で、顔を拭う。今日も、月は金色で、丸い。

 両腕で抱きしめられた。わたしの唇とランベールさんの唇が重なる。

 〈雫〉が唇に触って消えた。

 ランベールさんはふっと鼻で笑って、その場へ崩れ落ち、兵達が走ってきた。


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