理由
「お前のそういうところは、尊敬に値するな」
ナタナエールさんが云い、彼は気分を害したらしかったが、もごもごと謝った。多分、ナタナエールさんは本音で云っているのだろうが、彼には通じていない。皮肉、ととったみたい。
「ばけものを知れば、防衛が楽になる。防衛が楽になるというのは誰にとってもいいことではないか?」
「それはあやつらを倒しに行かないいいわけになります」
ああ、そこに反発しているのか。
話していると、そのひとの考えていることが、徐々にだけれど理解できるものなのだな、と驚いた。ナタナエールさんが頭ごなしに否定せず、彼にも喋らせていたのは、こういう理由だろうか。
防衛しているだけでは、ばけものの数は減らない。それはまったく、そのとおりだ。ばけものが人里を襲うのは、空白前に集中しているみたいだし、その時期に安全地帯を求めてやってくるばけものだけを倒したって仕方ないと思っているのだろう。そもそもひとが多いところを避けるばけものは、個人の旅だとか行商だとか、そういう人数が少ない場面で襲ってくる。
ばけものを倒す、殺す、この世から消す為には、「どうまもるか」ではなく「どう倒すか」を考えないといけない。
それに重きを置いている彼にとって、ばけものとの戦闘を回避する為の方法を知っても、無駄なのだ。それは彼には、消極的で意欲に乏しい、いらだたしい行動に見えるのだろう。
面白いひとだな。怪我や、魔力が不足しているなどで、どうしても戦えない時はあるだろうに。そういう時、彼がどうするのか、気になる。死にそうになっても戦う? そもそも、ばけものと戦って死ぬことをおそれていない?
訊いてみたかったが、ふたりの会話に割ってはいるのは忍びないし、そんなことを訊いたら萎縮させてしまいそうだった。少なくとも、皮肉やいやみととられただろう。
だからわたしは口をはさまない。彼にこれ以上きらわれたくなかった。すでに相当きらわれているのに。
意識がある限りなにがなんでも戦うタイプのひとなんだろうか。そんなひとを、間近で見たことがある気がする。とんでもない無茶をするひとを。
そういうのも、わたしが彼に興味を抱き、好もしいと思っている理由かもしれなかった。
ナタナエールさんは微笑んでいる。
「皆が皆、ばけものと戦えると?」
「……努力の問題が大きいと考えます。戦うことに対する意欲も問題になるでしょう。努力と意欲ならば、人間の都合です。ばけものの都合ではない」
「〈器〉が小さいものはどうすればいい」
「大きくすれば宜しいのではないですか? それこそばけものと戦えば、〈器〉は自然と大きくなる。〈器〉が大きくなればできることも増えます。卿のおっしゃるとおり、ばけものの恩恵はそれだけです」
これは話がかみあわない。
普段なら絶対にいらいらさせられていただろうに、彼だとそうでもないのが不思議だ。かなり好きになってしまっているらしい。とてもいいひとだから。
「努力と云っても、生まれつきのものが最初はものを云う。うまれついて〈器〉が小さければ、それを大きくするのは難しい」
「しかしできぬことではありません」
「ああ。わたしはそういう努力をしているかたを、間近で見ていたよ。間断なき努力をな」




