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愛嬌


 そうか、そうだよな。

 ばけものは一種類ではないし、いろんな習性がある。リザードマンのような「賢い」ものもいるし、ピルバグやスニーキーワームのような単純なものも居る――充分賢いのだけれど、リザードマンと比べれば、という意味で。

 ウォッチドッグは相手の数が多ければ逃げるそうだが、人間が多ければそこにつっこんでくるようなばけものも居るだろう。十把一絡げにする訳にはいかない。だから、防壁が要るし、王領警備部隊も必要になる。人数が多いと来ないばけもののために頭数を揃えて、人数が多いと来るばけものの為にそのひと達の練度をできるだけ上げる。それが一番確実、かつ簡単だと思う。失敗が少なそうだ。戦える人間がまもらないと、ばけものが強いのはわたしは、不本意ながら身をもって知っているし……。


 ナタナエールさんは小首を傾げる。なんとなく優しい目で彼を見ている。後輩、仲間思いなひとなのだ。どうも、彼のことを相当可愛く思っているらしい。

 その気持ちはわかる。彼は、可愛がられる人格をしていると思う。皮肉っぽいのも、いやみたらしいのも、不思議と愛嬌がある。

「ばけものが居るのはたしかに迷惑だし、ろくなことはない。人間を襲う、言葉は通じぬ、倒しても〈器〉が大きくなることくらいしか恩恵がない。その恩恵が大きいと考えるものも居るが」

 とびきりの苦笑を、ナタナエールさんは見せた。そういえば、云われてみればばけものの恩恵というのは、それくらいだ。マーダーウッドと戦った時に、家具の材料にすると聴いたけれど、そんなに量はとれないらしかった。つかえる部分が少ないのだ。

 それに比べて、〈器〉はどんな状況でも、相手を殺せば増える。増える量の多寡はあっても、まったく増えないということはない。相手の〈器〉と自分の〈器〉の大きさが、増える量に関係するから、〈器〉の多いばけものを倒したからと云って確実に〈器〉が大きくなるとは云えないが。その点、ゲームなどとは違って厄介なのである。強大なばけものを倒しても、倒した人間の〈器〉が小さかったら〈器〉はさほど増えない。自分の〈器〉以上には相手から奪い取れない、という法則があるらしいからだ。ゲームなんかだと、レベルの高い相手を倒せば相当な経験値がはいるから、それとは違う。

 ああ、そもそも経験値とは似て非なるものなのだ。その辺りがこちら出身ではないわたしには、理解に時間がかかる。経験値とちがって即座に還元されるものというか、なんというか。

 下位コンバーターという〈器〉を細かく計測できるものがあるので、これまでの長い歴史で奥の一がそれを検証している。増えないことはない、というのはだから、確度の高い情報だ。きっと多くのひとが検証したのだろう。


「いずれにせよ、ばけものが増えればまちや村が壊され、すみかを失う人間が出る。ばけものが居るのが無駄だ、迷惑だというのはそうだろう。が、だからといって、あやつらのことをまったく知らぬでいいとは思わぬ」

「おっしゃる意味がよく……」

 わかりません、と、彼は凄く云いにくそうに続けた。わからないというよりも、わかりたくないのだと思う。ナタナエールさんの言葉をどうしても認めたくない、拒みたい、のだと。


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