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安心を与える


 従僕がひとり出て行き、聖女護衛隊の兵が這入ってくる。慌ただしいが、わたしにできることはない。じっとして、魔力を恢復(かいふく)し、備える。それだけだ。備える、か。

 アルバンさんへ目を戻す。アルバンさんはまだ、パーティ会場について一席ぶっていたが、わたしはそれを遮った。

「貴族の軍も、こちらに移動しているのですよね? 王領警備部隊や、聖女護衛隊だけではなくて」

「はい」

 アルバンさんの反射神経は素晴らしく、わたしの質問に即答する。すぐに、説明まで飛びだした。「すでに三分の一程度の部隊が移動を終えたようです。それ以外は、森のなかの道を整備する為に残っていますが、それもすぐに終わるでしょう」

 ああ、まだそれがあった。忘れていた。


 道の整備は、「それなりに迅速に」すすんでいるそうだ。

 アルバンさんは貴族軍の人間ではないし、共同で作戦にあたっていると云っても、やっていることすべてがきっちり情報共有される訳ではない。軍ごとの機密だとか、外に出せない情報というものもあるし、スパイを警戒しているというのもあるんだろう。それくらいは、わたしにもわかる。

 だから、詳細までは知らない、と云うのだが、それにしてはくわしい説明をしてくれた。

 どうやらネックは、あの湖の、訳のわからない巨大なばけものだったらしい。

 あれについては、まだ調べている最中だし、調べても正体がわかる保証はない。アルバンさん曰く、多分わからないで終わるだろう、とのこと。

 なんだかよくわからないばけもの、というのは、これまでにも幾つも記録があるそうだ。それ一体だけあらわれて、ほかに類似のものが居らず、二度と似たものが出てこない、というような。なんだか長ったらしい名前を幾つか云われたが、どれも頭に定着しない。

 めずらしいことではあるけれど、今までない話でもないので、多くのひと達はあれがなにか解明される可能性に関しては諦めている。というか、解明されなくてもいいと思っている。どちらにせよ、排除されたのだ。重要なのはそちらだそう。


 現に、あれが排除されたことで、ここのひと達は安心している。

「安心」

「そう表現するのが、一番宜しいかと思います」

 アルバンさんは優しい微笑みだ。「あれが排除されて、森に這入るのを必要以上におそれなくなったと……もともと、この辺りに暮らしている者らが多いですからね」

「あ、そうでしたね」

 貴族の軍には、地元のひと達が多く所属している。多くがこの地域出身だとかなんとか、誰かから教わった。ということは、あの湖の伝承や、ばけものが居るという話も知っていたのだろう。それで、作業が遅れていた。森に這入るのをおそれるひとが居たから。

 ばけものをおそれて作業が遅れていたのなら、あれが居なくなったらスピードアップする。そりゃ、当然だ。当然なのに、云われるまで気付かなかった。ばかみたい。

「安心してくれているのなら、よかったです」

「あめのさまのおかげですよ」

 アルバンさんはそう云ってから、表情をひきしめた。「さしでがましい口をききました」

 頭を振るが、アルバンさんはかしこまって頭を下げる。なんだかそれがいやで、でも辞めさせる方法もわからなくて、どうしようもなかった。

 なにもできない。


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