連携
侍従達が低声で言葉をかわし、ツァルレスさんが出て行った。マーリスさんがそれに、無言でついていく。ツァルレスさんが苦労して両腕で持ち上げた箱を、マーリスさんはいとも簡単に片腕で持った。「ありがとうございます」
「いいえ。力仕事は自分達に任せてください」
「助かります……」
会話はぎこちないのだが、侍従達と聖女護衛隊は、奇妙なほどに連携がとれていた。どちらも宮廷方式のやりかたに慣れているからだと思う。どちらも、宮廷に近しい位置に居る。宮廷というか、陛下に、か。侍従は陛下の持ちもの、聖女護衛隊は聖女の持ちものだが、聖女が陛下のものなのだから。
わたしは、陛下と殿下の間で、なんとも云えない位置に居る。とてもビミョーで、扱いがたい存在になっている。
かすかに楽器の音がしている。管楽器だ。わたしの好きな、木管の音がする。
「広間はどこにあるんですか? というか、あるんですね」
頬杖をついてしまって、慌てて姿勢を正した。アルバンさんはにこっとする。
「丁度、つくっていたそうでございます。工匠部隊は聖女さまのことを尊重して、聖女さまの楽しみやなにかのことも配慮しているようですね」
「はあ」
こっちでは、戦争の時にパーティをするのは普通みたいだから、あるんだろうとは思っていたが、そういう反応をされるとは思わなかった。
「場所は……」
「あちらの方角でございます」
アルバンさんは南を示す。少しだけ西だ。南南南南西ぐらい。
「楽隊が演奏しやすいように、反響などを考えているとか」
「凝ってますね」
その確認で、演奏しているということか。その演奏をゆっくり楽しむ機会があるとは思えないので、今のうちに聴いておこう。勿体ないから。
「灯も、美しいものを用意しているそうでございます。功を立てた者らが、楽しみにしているでしょうね。あめのさまの主催の宴なのですから、それはもう」
木管は何本かあるらしく、多重構造の音をしている。よくわからないが、深みがあることだけはわかった。聴いたことがないような音もまざっている。それから、楽隊が相当、気合いをいれているらしいことも、よくわかる。まったくもって、リハーサルの音ではない。
「天井に装飾を施すので、少々時間がかかるそうです。ですので、あめのさまにこうして、ここで待って戴いているのですよ」
「ああ、そうだったんですね」
ドレスを着てからがいやに長いので、おかしいとは思っていたのだ。会場の設営の問題だったらしい。わたしが突然、パーティをするといいだしたので、どこもてんやわんやだ、ということだろう。それにしては、侍従も宮廷魔導士も楽しそうだし、嬉しいようだけれど。
軽くノックの音がして、王領警備部隊の兵が顔を覗かせた。ブライセさんが対応する。「騎士さまがたからの……これなのですが……」
「ああ、でしたら、こちらに……はい……」
低声なので断片的だが、兵は貴族軍からの言伝をあずかってきたようだ。花がどうのと云っているのは、花束でも持参するつもりなのかもしれない。それとも、わたしがもと居た世界みたいに、パーティの時に花環みたいなものを贈るのかしら。パーティを一回やるのに、これだけの人間の行き来があるとは、慌ただしい。




