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結局は無駄


 いつの間にか、ランベールさんがくれた五貨も、無事に〈雫〉にされたみたいだ。どれが、五貨がもとの〈雫〉かは、わからない。〈雫〉はもとがなんであれ、〈雫〉だからだ。といっても性質に多少の違いはあるようで、五貨から〈雫〉にしたほうが消えにくいそうだけれど、その恩恵にあずかったことはほぼない。〈雫〉というと、わたしの場合、すぐにつかってしまう。スゥーリーに助けられた時には、その性質のおかげでなんとかなったけれど……。

 幾ら、半日は()つといっても、これだけ兌換してしまって、大丈夫なんだろうか。無駄になるかもしれないとは思わないのかな。

 パーティが終わって、その後片付けをするひと達が、この〈雫〉で魔力を恢復(かいふく)しながら作業する……というのを、想像してみる。不要になったものやごみを、魔法をつかって別の物質に変質させたり、汚れたものを洗う時に魔法で水を出したり。多分そういうことだ。じゃなくちゃ、無駄すぎる。侍従達がそこまで考えていないとは思えない。


 アルバンさんがにこやかに、〈雫〉をひとすくい、ゴブレットにいれた。彼は丁寧な物腰で、わたしにそれをさしだす。「あめのさま、こちらをどうぞ」

「大丈夫です」

 断りは通じなかった。ゴブレットをおしつけられて、うけとる。要りませんと云えばよかった。それは言葉が強すぎるか。

 〈雫〉は、つまみあげようとしたけれど、できなかった。弾けるように消えて、わたしの体のなかを巡る魔力になる。

 魔力ってなんなんだろう。あらためて疑問に思ったけれど、答えは一生わかりそうにない。こちらの世界の成り立ちから勉強しても、きっと。

 これを、一般市民がこの〈雫〉を手にいれようとしたら、どれだけの努力が必要なんだろう。それに、一般市民が〈雫〉をどれだけ必要とするんだろう。

 普通は、むちゃくちゃな規模の魔法なんてつかわないか、つかったら死んでしまうから、〈雫〉を大量につかうことがまずない。人数が多くなれば可能性はあるが、わたしみたいにひとりで沢山の〈雫〉をつかうことはめずらしいだろう。

 わたしは、たしかに、聖女として優秀かもしれない。軍と匹敵するくらいに戦えるのかもしれない。それは……そうなんだろう。

 でも、コストがかかるのなら、結局は無駄なのでは?

 わたしが戦うと、大量の〈雫〉が消費される。〈雫〉はつまり、玉貨だ。お金だ。お金をつかって魔力を恢復(かいふく)している。

 わたしって、存在意義があるんだろうか。それだけのものをつかう価値がある投資先なのか?

 〈雫〉はどうしてもつまみあげることができない。もう充分、魔力が戻っている気がしたのに、まだまだ足りなかった。〈器〉は大きすぎて、幾らでも魔力を吸いこむようだ。

 綺麗なオレンジ色がきらきらしていて、そういう飴みたいに見えた。姉がこれを見たら口にいれようとするだろう。鮮やかな色のものでも気にせずに食べられる、とても素直で人間的なひとだから。わたしみたいに、扱いにくい人間じゃない。


 玉貨の箱の蓋が閉まる。ぱちんと掛けがねがおろされる。ああいったものは、転移者が仕組みを伝えたのか、こちらで独自につくられたのか、どちらだろう。

「これは、広間へ?」

「そのほうがいいでしょう」


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