不穏
ある程度装着がすんだところで、従僕がわたしに対して丁寧なお辞儀をし、出て行った。色合いをたしかめると云っていた割に、袖や腰周りの形状について、ブライセさんにかなり細かく訊いていた。くつの素材や、片手半剣のことも。武器に関して訊いた時には、アルバンさんの眉が不穏にぴくぴくしていた。
従僕がいなくなったあと、侍従が三人がかりで、どうにかこうにかわたしの体にドレスをくっつけ終えた。わたしは疲れて、椅子へ腰掛ける。布ぐつへ足を滑り込ませ、足首を曲げ伸ばしする。体中をしめつけられているみたいな錯覚に陥る。
「彼は、なんのために、わたしの着るものを確認に来たんですか?」
考えてもわからないので、訊く。アルバンさんが云う。「勿論、あめのさまに失礼のないようにです」
答えのようで答えになっていない。自分で考えろということらしい。そういう意識もないのだろうけれど。彼はわたしに対してならこれで通じると思っているのだ。
失礼のないように、ね。
考えられるのは、わたしと同じ服を着てこないように、女性陣が差し向けた密偵、だ。それが正解だと思う。
宮廷魔導士がつくってくれているので、わたしとまったく同じドレスを着てくるということは――既製品ではないから――もの凄い低確率だが、あり得なくはないだろう。そもそも、ドレスなんて似たような形状をしているし、わたしにはそこまでの違いがあるように見えないものでも侍従達がどちらにするかでもめるくらいだから。
こっちにだって、服装の流行り廃りはあるみたいだ。人間の文明的な社会があるのだからそれはそうだろう。なら、最近はやっている格好をしたら聖女と同じだった、ってことは、あるかもしれない。
宮廷魔導士が、聖女に野暮ったいドレスを用意する訳がない。まあ聖女の好みもあるだろうが、わたしは殿下の指示で自分の意思とはほぼ関係のないチョイスで服装を決めているので、もしかしたらもの凄くおしゃれだと思われている可能性もある。そのおしゃれな聖女がなにを着てくるかわからない、ってことも。
同じような形状をしている、同じような布をつかっている、同じようなぬいとりをしているドレス、っていうだけでも、まずそう。これまでも、こんなふうに訊きに来ていたんだろうか。
聖女とかぶって、失礼だと叱責されるとか、パーティを追い出されるとかくらいならまだましなほうだ。聖女はキレたらなにをしでかすかわからない。もしわたしが聖女のパーティに招かれたら、仮病でもつかって逃げる。へまをしたら殺されそうだし。
女性陣が、わたしと被らないように偵察を出した、という以外でなら、どんな可能性があるだろう。
ドレスの形状に合わせて、椅子をかえるとか? それもありそうだ。ドレスによっては、肘掛けや背凭れが邪魔になる。
何故そんな苦行みたいなことをすすんでするのかはわからないが、ぎっちぎちに上半身をしめあげて板みたいにしてしまって、ぶわぶわにスカートをふくらませたドレスはある。椅子に軽く腰掛けることしかできないし肘掛けの形状によっては椅子を弾きとばしてしまうような代物である。何故そんなセルフ拷問をしないといけないのか理解はできない。




