すりあわせ
いつもならそのような些細なことではもめない。そもそも今のような場合なら、「ここにレースをつけるか否か」を侍従達で話し合って、答えが出てから宮廷魔導士に指示を出す。
彼らがそういう議論をしているのは今までも見たことがあるし、ことドレスとマントに関しては、わたしがほとんど口をはさめないかわりみたいに彼らが怒濤の勢いで話し合ってきた。これまでにわたしの意見が通ったのは、ドレスの形状や、丈、丈夫さに関してくらいで、あとは大概やんわりと、もしくはきっぱりと、退けられてきたのだ。わたしはこちらの行儀作法を知らないので、彼らが云うことが正しいのだろうと考え、素直に従っている。
だから、この段階で意思統一ができていないのは、めずらしい。なんだかおかしな感じがする。何故、もっときちんと話し合ってから、宮廷魔導士に指示を出さないのだろう。
わたしはマサパンらしきものを食べ終え、お水をすすった。やけにパサパサしていて、咽の辺りにつかえたみたいだったのが、それでおりていく。あまり食べたくはないけれど、食事も休養の一環だと云われたら、どうしようもない。きちんと食べなさいというのは、仮眠の前にも医者から云われたことだ。
わたしはそこそこ食べているのだが、こちらの感覚だと小食らしい。もしくは、〈器〉の大きさと食事量になにか関係があるのだろう。わたしがこちらの世界のなにを理解していないかを、このひと達はまったくわかっていない。だから誰も説明はしてくれないし、わたしもなにを訊けばいいかわからない。
どうも、〈器〉が大きなひとは、食事を沢山とるみたいだった。それはなんとなく感じている。ランベールさんはほかのひとよりも食事をしているもの。ただそれが、〈器〉が大きいから食事もする、なのか、〈器〉が大きいひとは魔力の維持の為に食事を多くとるよう心がけている、なのかがわからない。それって、小さなようで大きな差だ。
わたしは〈器〉が大きいそうだが、そこまで大食漢のつもりはない。だから多分、魔力が減らないようにきちんと食事をとることを心がけている、というのが正解なのだろうけれど……正確なところはわからない。それに、もやもやする。片手落ちというか、なんというか……文句を云えた筋合いではないが、無理に異世界からつれてきた人間に対して、不親切ではないかな。
別に親切にする為に呼んだ訳ではないのだ、彼らも。
それにしても、代わり映えしないメニューに、そろそろ飽きている。こちらの料理人には頑固者が多いらしく、わたしの食べられないものをぬいてはくれるようになったものの、素っ気ない食事が多いのだ。カットしただけ、みたいなフルーツは実に豪華なのだが、ほかはそうとも云えない。幾らおいしくても、黄金色のご飯も続きすぎると飽きる。栄養が偏ってしまっているのだと思う。ヴィタミン剤を生成してみようか。できるかな。不可能ではないだろうが、魔力をどれだけつかうだろう。
相変わらず侍従達がもめているので、ちょっと考えてから、声をかけた。
「そんなに難しく考えないでください。わたしは、丈夫なものならなんでもいいですから。ああ、勿論動きやすいほうがありがたいですけど」
「そういう訳には参りません」




