詰め込まれる
感謝されている、というのが変な感じがしてしまう。あまりよくないな。わたしはこういうものをうけとるのが凄く苦手だ。ひとに感謝することも苦手なんだと思う。感謝するのもされるのも慣れていない。
窓がない……。
ふと見てみて、ああ窓がないなと思った。昨日はあった? 覚えていない。あったとしたら、それはミスだったのだ。戦闘行為が頻発している場所で、要人――一応、わたしは要人だろう。自覚はある――が泊まっている部屋に、窓は要らない。そこからなにかが飛びこんできたらどうする。魔法に、武器に、敵兵、飛びこんでくる可能性のあるものは数限りない。信じられないような不運が重なれば、小石が頭にあたったくらいでも人間は死ぬのだ。人間が出入りできそうな窓を設置するものか。
だが、ここに窓がないことに、強烈な閉塞感を覚えた。釣り上げられた魚みたいに息が苦しい。なにかにしめつけられているみたいにいらいらする。
壁に穴をあけてしまいたいけれど、それをやったら安全性が下がる。第一、穴をあけてすぐに外につながっているかもわからない。
窓。窓。
窓って、建物にかならずしもなくてもいいものなのに、存在する。人間がそれを必要としているからじゃないか。
空気のいれかえをしたほうがいいのはわかるが、ちょっとした家を建てるのに、そこまで密閉性の高いものは無理だ。窓なんてなくたってあらゆるところから空気がいれかわる。ひとの出入りもあるのだし、ちょっとドアを開け閉めすればそれで充分だろう。
窓からはいってくるのは、空気だけではない。虫だとか小動物だとかもその辺りをちょろちょろ行き来する。行き来できる。それって面倒くさい。
でも、実際窓のないところに居ると、凄く息がつまる。がらす窓が一般的ではないみたいだから、窓をつくったら面倒が多いとわかっていても、ほしい。これも慣れればなんとかなるのか。
別にわたしをとじこめる為にこういう造りなのじゃない。それはわかっている。わかっていてもいやだ。
わたしの人生はこれからこういうものになるのだろう。ずっと箱詰めにしておいて、たまにとりだしてひとに見せびらかすめずらしいものみたいな扱いをされる。それで? 結婚して、子どもをうんで、この国の為に死んでいく?
「散歩へ行ってもいいですか」
侍従達の話を遮って、なんの脈絡もなく云ったわたしに、誰も反対しない。きまずそうに、申し訳なそうに、じっと見てくる。兵がひとり出て行った。すぐに戻る。だめではないみたいに思えた。
別に閉塞感はそのままだった。場所の問題ではない、環境の所為ではない、と気付く。単にわたしの気分に問題があるらしい。
侍従は、アルバンさんだけついてきた。あとのふたりはどこかへ行ってしまった。
勿論、アルバンさんだけでは警護にならないので――そしてわたしが逃走するおそれがあるので――、兵はついてきている。王領警備部隊、聖女護衛隊あわせて、十人くらい。
顔見知りというか、名前を知っているひとは数人だけだ。わたしは彼らの誘導で、ある一定の区域だけを歩いていた。宮廷魔導士がつくったグラジオラスみたいな色のドレスに、黒いマントを羽織り、もしもに備えて片手半剣を佩いて。




