皮肉っぽい
聖女のあしどめには有効だと思ったのか、わたしだから興味を持つと思ったのか、それは知らない。だが現実、わたしは武器に釘付けで、実際に壁へ向かって投げまでした。たしかめる為、なんて考えて、意気揚々と。
壁は傷付いたが、わたしが「評定に行く!」と暴れることはなかったので、侍従達は満足しているだろう。それにしては肩を落としてしょげかえっているが、侍従達は基本的に正直なので、気が咎めているのかもしれない。評定はあるけれど行かないでください、と正直に云いたかったのじゃないかな。
「わかりました」
ランベールさん達へ向き直る。座っているのはランベールさんとマーリスさんで、ナタナエールさんは立っていた。数歩後ろに、王領警備部隊の兵がそわそわした様子で控えていた。どうやら彼がなにかしらの補助をするらしい。ご苦労なことである。
「お話を聴きます。かいつまんだものではなく、成る丈くわしく話してもらえますか? ランベールさん達には二度手間で申し訳ないんですが、評定に参加できずに直に聴けなかったので」
自分で思っているよりも皮肉っぽい、ひがんでいるような声が出た。マーリスさんは目を伏せ、ナタナエールさんは気まずげに顔を背けたが、ランベールさんはじっとわたしを見ていた。「聖女さまの御心のままにいたしましょう。……ナタナエール、駒を」
「はい、隊長」
ランベールさんは普段から、評定に参加する。発言権のある、聖女護衛隊と王領警備部隊の指揮官のひとりとして。もしくは、聖女の補佐役として。
そのどちらが正しい認識なのかわからなかった。一応、ランベールさんが指揮官ではあるのだが、表面上でもわたしが彼に任せていることになっているのか、そもそも「剣聖」がやるのが普通なのか、知らない。聖女が軍を預かっているという建前で剣聖が指揮を執るのが普通なのか、聖女が指揮も執って、ランベールさんがいろいろとやってくれているのは異例なことなのかが、わたしには知識がないのでわからない。ランベールさんの口振りだとわたしが指揮も執るべきみたいなのだが、そうだとしたら彼はだいぶ、越権行為をしていると思う。
ナタナエールさんとマーリスさんも、評定に参加はしたらしい。発言をゆるされたかどうかは知らない。「フィロン軍は一師団がほぼ、動けない状態だそうです」
「怪我人が多いんですか?」
「いえ、そうではありません」
そんなふうに、ランベールさんにかわってナタナエールさんやマーリスさんが、メモらしいものを見ながら喋った。
「休日をとらせる約束をしていたのに、兵士達自身がすすんで休みを申請せず、今になってそれだけの人間が休まざるを得なくなったそうです」
「まあ」
王領警備部隊には、数日に一度の割で休みをとるように指導している。わたしやランベールさんも休まないといけない。フィロン軍アブレイド軍にも、兵を休ませてほしいと云うことは、いつだったかに伝えていた。まもってくれるらしい。律儀なことである。
まもってもらったほうが士気の維持にはいいし、鍛錬の効率も上がりそうなのだけれど、干渉したようにとられないかしらと今更不安になった。ランベールさんが渋面にはなっていないので、大丈夫っぽい……かしら。




