王位継承権を持つふたり 1
「やあ、ランベール、コランタイン卿、マーリス卿」
エドゥアルデは執務室のテーブルへ腰掛けて、脚を組んでいた。
この寒いのに上はシャツ一枚きりで、外套を左肩へひっかけている。コランタインが鼻へ皺を寄せた。どうも、コランタインはエドゥアルデが苦手らしい。
エドゥアルデはあしをゆらゆらさせていたが、ひょいと床へ飛び降りた。テーブルの上から羊皮紙をとりあげ、思案げに眺めてから、こちらへやってくる。
さしだされたそれをとって、ランベールは目を落とす。辞令だ。
「陛下から承認はもらった」
エドゥアルデはまたしてもテーブルへ腰掛け、脚を組む。細い指でやすりをつまみあげ、爪を研ぐ。「お前の要望通りにはいかなかったが、これでも僕は尽力した。誉めてくれてもいいのだぞ」
「……ありがとうございます」
エドゥアルデはにんまりしたが、やすりを置いて、ランベールを手招く。ランベールはそちらへ近付いていった。
エドゥアルデの両腕が首に絡みついてきた。外套が床へ落ちる。
「僕がほしいのは礼ではなく賛辞だ」
「……コランタイン、マーリス、出ていけ」
コランタインがなにか云いかけたが、マーリスがそれをひっぱって出ていった。
エドゥアルデは腕を解き、別の羊皮紙をとりあげる。「お前のとこの兵は純情なのだな」
「……あまりからかうと可哀相だとは思わぬのか?」
「まったく」
ランベールは外套を拾い上げ、エドゥアルデは首をぽきぽきと鳴らす。
「誰からどこへ情報が行くとも限らない。忌々しいことに、陛下が僕を廃嫡したがっているからな。お前の兵と雖も信用ならん」
「わたしの兵ではない」
「なら尚更信用ならぬさ。さて、僕は昨夜ほとんど寝ずに聖女護衛隊についてまとめ、今朝はやくに僕を政治的に抹殺しようとしている父親から承認をもらい、救いがたく愚かな妹の問題に対処してきた。誉められて然るべきじゃないのか?」
ランベールは溜め息を吐く。エドゥアルデの働きは素晴らしいし、尽力は解る。「……よくやった。これでいいか?」
「お前にしては上出来だな。ほら、聖女護衛隊の用度金だ。管財局へ行って、兵営へ運んでもらえ。それから、これも」
もう一枚の羊皮紙をこちらへ寄越した後、エドゥアルデは背後からなにかを掬いとる。
上位コンバーターだ。
エドゥアルデは立ち上がり、ランベールの首へ手をまわす。抱き付く為ではなく、上位コンバーターをランベールの首へかける為にだ。
上位コンバーターが揺れる。そこにあるのがしっくりくる。体の一部であるかのように。
「お前の望み通り、これはお前のものだ。……母君へ自慢するといい。実力で奪い返したと」
エドゥアルデの声からはからかうような調子が消えている。お互い、母親を冗談の種にできる程、傷が癒えてはいない。
エドゥアルデは顔を背けてぼそぼそと云う。
「聖女護衛隊に関してだが、所属の兵は全員王室護衛隊と同じく騎士爵を与える。王室護衛隊から異動した者はそのまま、別の隊から来た者は新たに叙任しよう。王室護衛隊同様、宮廷内のどこであっても自由に出入りできる。勿論、玉貨鉱床を除いて、だが。それから、陛下は渋ったが、これまで通り聖女護衛隊隊長は王室護衛隊隊長よりも位は上だ。兵に関しても慣例通り、ふたつの隊は同等とみなす」
つまりわたしはまだ、陛下に脅威と認識されるのか。




