魔法の授業 3
内臓や、四肢の損傷も、切り落としてしまっただけならくっつくので簡単。ぐちゃぐちゃになっていると、もとの形がしっかり解っていれば魔力消費は減る。完全に欠損していると、構造をしっかり理解せずにつくるのは、魔力を尋常ではなく消費するので危険。
だから、恢復魔法をつかえる場合、負担を減らす為に、解剖図を見て勉強する。細密な絵でなくとも、大体が解っているだけでも魔力の消費量は違う。
そう……。
魔力消費について。
下位コンバーターはいろんなところにあって、誰でも計測も兌換もできる。だから、こういう魔法だと大体これくらい魔力をつかう、と云うのも解っているらしい。きちんとデータがあるのだ。
そして、それに拠れば、実際しっかりと覚えていなくても、解剖図効果で魔力消費は減らせるのだそう。だから、恢復魔法をつかえるとこういうことを学ぶのだと、ヴァグエット先生は云う。
わたしは解剖図を見て、つたないが描き写し、覚えようと努力した。さいわい、もとの世界の教育のおかげで、基礎は解っている。
これで誰かを救えるのなら、覚える。
ヴァグエット先生は、空が赤くなる頃に帰っていった。明日は、つかってはいけない組み合わせや、ものに書いたり縫い付けたりすると効果を発揮する魔法文字について、ざっと学んだ後、今日の授業をさらえる。
わたしは、描き写した解剖図を眺める。はっきり云って、巧くはない。ただ、配置が間違っていたりはしないし、本はここにあるから確認できる。
もう一枚、もう一枚、と、内臓や、骨と腱の描かれたページなどを、ちまちまと描き写していった。なにしろ、為になることなのだから。
手がインクで汚れ、流石に目の前がちらちらしてきて、わたしは手を洗いに浴室へ行く。戻って本を片付けようと考えていたのに、侍従達が片付けてくれていた。どうやら、描き写したものも、本と一緒に本棚へつっこまれてしまったようだ。
それだけでなく、テーブルのクロスはまっさらなものにかえられ、食器が並べられている。わたしが席に着くと、まもなく食事が運ばれてきた。
ふかしたさつまいもと栗(皮と渋皮はむいてある)、それから小皿にはいったピンク色の塩、ふたつの水差しと二脚のゴブレット、生野菜のサラダ。厨房には、まだわたしのアレルギーのことがきちんと伝わっていないようで、それ以外にはなにもない。おなかがくちくなるなら、それでいいけれど、……たんぱく質が足りない。
シェリレさんが申し訳なげにした。「申し訳ありません。料理人がかたくなで、聖女さまはその……選り好みが激しいかただと思っているようなのです」
そうか。それならそれでいい。
わたしは侍従に、深めのお皿を持ってこさせた。こうやっていいつけるのにためらいが少なくなっている、と自覚する。
お皿をテーブルへ置いて、指で魔法文字を書いた。イメージはかたまっている。わたしでも安全に食べられる、たんぱく質。大豆だ。
ざらざらと、お皿に、煎り大豆がたまった。魔法というのは便利なものだ。
侍従達が目をまるくするなか、わたしは程よく煎られた大豆をほりほり嚙み砕き、飲み込んでいく。香ばしくておいしい。
ふかしたお芋は味がせず、栗も香りがぬけていた。バターをのせたらおいしいのだろうけれど、食べられないものは仕方がない。




