船に揺られて護送中 2
マリネも安全そうなので、食べた。酸っぱい。
スープは、お匙で掬って、匂いを嗅いで、もとに戻した。だしに、お肉がつかわれていたら、アウトだ。でも、どっちだろう。お肉っぽい香りがするようにも、そうでないようにも感じる。
手を膝の上へ置いた。兵ふたりは、不安げにしている。ランベールさんがこほんと咳払いした。
「あめのさま……お気に召しませんでしたか」
「え……いえ……そういうのじゃなくって……」
ランベールさんは冷たく、わたしを見ている。わがままを云っている、と、思われた。多分。
兵のひとりが、意を決したように云った。「聖女さま、そのスープは、丹精込めてつくられたもので、とてもおいしい筈です」
「アムブロイス、口が過ぎるぞ」
ランベールさんが遮るが、兵・アムブロイスさんは低声で云い募った。
「ですが……エーミレが、聖女さまの為と、昨夜から寝ずに……」
「お前は聖女さまに食事を強要するのか」
「沢山食べて戴かなくとも、せめてひとくちくらいは」
云い争いが激化しそうな雰囲気があって、わたしはそれがいやだったから、もう一度お匙を掴んだ。アムブロイスさんは笑顔になる。
「聖女さま」
きっと、ひとくちなら、大丈夫。ごまかせる。餃子の時は、三個目だったから。
わたしはお匙でスープを掬い、口へいれた。さらっとしていて、味に深みがある。こんなにおいしいスープ、飲んだことがない。人参やセロリ、パセリみたいな香りがした。野菜のスープなら、なにも起こらない。
ひやっと、食道が冷たいように感じた。お匙を置く。寒気がする。せなかが寒い。
やっぱり、動物性のだしだった。わたしはうんざりして、手の甲にあらわれたじんましんを見る。頭がぼんやりして、痛い。息も苦しい。目と咽が痒い。ソファに倒れる。顔や首にもぶつぶつが出てきていた。鞄がない=エピネフリンがない。
わたしの傍に膝をついて、ランベールさんが云った。「エーミレをとらえろ、毒だ」
「ちがいます」
掠れた声で否定する。兵ふたりは狼狽えていて、棒立ちだ。
「わたし……」
必死で、魔法をつかった。どんな魔法がいいのか見当もつかず、とりあえず体を冷やす。症状は少しだけ軽くなった。
まだ咽が痒い。声が出なくなる前になんとかしなくてはいけない。……クイは、水や氷以外に、毒という意味もあった。毒をとり除け、でいいだろう。「クイ・ビイ・ミィ……」
魔法をつかうと、効果はてきめんだった。すっと呼吸が楽になる。眠たい。
体を起こした。うとうとしてしまった。ベッドに運ばれている。ランベールさんが、間近に立っていた。すっと片膝をつく。
「あめのさま。部下が、無理を」
「いいえ……」
「エーミレとアムブロイスには処分を下します」
それはだめだ。わたしは頭を振る。「やめてください」
「しかし、あの者らが用意した食事で、体調を崩された」
「体質の問題です。だから……食べなかったら平気ですから」
もどかしい。言葉が、ぱっと、出てこない。だから、いつだって、ちゃんと云えなくって。
ランベールさんは、かすかに頷いた。
「……あめのさまは、獣の肉で体調を崩される。そういうことですね?」
「はい。……あ、それと、お魚や小麦もだめです」
慌てて付け加えた。「スープ。おいしかったです」
そんなことしか云えないのが情けない。
ランベールさんは頷いて、一旦出て行き、すぐに戻ってきた。ふたりは不問に付すと、兵達に伝えてくれたそう。
「ありがとうございます……」
どう考えても、あそこで口にしたわたしが悪かった。はねつけるべきだったのだ。ああいう場面でいい顔をしようとする自分が嫌いだ。
ランベールさんは小さくお辞儀する。ペンダントが揺れる。……さっきはつけていなかった。
白っぽい、骨のようなものがペンダントトップだ。さいころみたいな形で、7cm×7cm×7cmくらい、角が上に来るようになっている。太く二本、溝が掘られ、その部分は弁柄色。……二本の線は、別の面ではつながっていた。紐の両端をくっつけて輪にし、左右を一回ずつくるっと捻ったような模様だ。三面ずつつかって、同じ模様がふたつ掘られている。
わたしの目がそれに引き寄せられているのが解ったか、ランベールさんはペンダントの細い鎖を指にひっかける。「今回の任に際し、王家より借り受けたものです。〈陽光の王国〉王家は、上位コンバーターを複数所持しています」
コンバーター?
唐突に、英単語が出てきた。……そういえば、わたし、どうして言葉が解るんだろう?
ランベールさんは懐から、きらきらするものをとりだした。透明で、金がちらちら見える……ルチルクオーツ? ひらぺったい、おかきみたいな形だ。つるっとしている。
ランベールさんはそれを、ペンダントトップへおしあてた。と、ルチルクオーツは消えてなくなる。
ランベールさんが手をこちらへ向けた。不透明なオレンジ色の、雫型のものがふたつ。
……マジック?




