3.繋ぎ止める者
もう、彼女がリーダーで良いんじゃないだろうか。そう思ってしまうほど、作戦会議での彼女の黒い獣に対しての分析は的確で、言葉を捲し立てる彼女にオレ達はうんうんと頷くことしか出来なかった。
「報告されている特徴を考えると、黒い獣はおそらく竜種か、あるいはそれに近しい類いの魔物でしょうね。今まで返り討ちにあった冒険者は、半数以上が雷や風などの魔術師。であれば、黒い獣は非常に高い魔術耐性を有していると考えられます。私やマユーさんの魔術では決定打にならない可能性があるので、明日は私達の中で最も近接戦闘能力の高いザニィさんを主軸に攻撃を組み立てましょう」
「クエストに出た冒険者が悉く死んでいることを考えると、黒い獣は気性の荒い魔物であると推測できます。熟練の冒険者である≪砂の魔術師・ニクイルャン≫さんですら発狂する始末です。非常に高い暴力性、残虐性を有していると考えられるので、多少高くなろうとも聖根水や魔力草などの回復アイテムは用意すべきかと。その管理には、小回りが効いて、かつ中衛を担うことが多いガディックさんにしていただきたいのですが、如何ですか?」
「ああ、買い物ですか? それなら、今日の昼に済ませてあります。ギルドマスターさんからもご助力を頂いているので、その辺りはご安心を」
「それから、これはもう周知の事実かもしれませんが、念のために話しておきます。黒い獣と会敵してしまった場合、撤退という選択肢はないものと思っていてください」
「なぜか、ですか? では、逆にマユーさんにお聞きしますが、今までこのクエストを受注した冒険者が、全くもって帰還できなかった理由は何だと思いますか? 空を飛び、上空から追撃できるから。単純に、走力が人間よりも高いから。そういった要因が考えられます」
「ええ、魔術を使ってくる可能性もありますね。もしくは硬質な角を自由自在に伸ばしたり、操ったり出来る、とか。まあ、考えたらキリのないことです。とにかく、黒い獣はそう簡単に私達を逃がしはしない。それなりの覚悟が必要な相手、ということを、分かってるかとは思いますが肝に銘じておいてください」
「え、浮かない顔、ですか?」
「…………」
「……1つ、引っ掛かることがあるんです。≪砂の魔術師・ニクイルャン≫さんは、黒い獣の姿をこう言い表しています。『岩のように角張った鱗をもち、丸太のように太い腕と脚をもち、屋根のように広い翼をもち、幽鬼のように恐ろしい顔をもつ』と。これらの特徴から、黒い獣が竜種である可能性を考えたわけですが、ここで1つ疑問が浮かんでくるんです。なぜニクイルャンさんは、こんなにも回りくどい表現で黒い獣を言い表したのか、と……」
「そう、竜種であるならば、ストレートに竜種と言い表せば良いのです。わざわざ多くの言葉を用いずとも、その1つの単語を示すだけで、冒険者ならばその姿を想像できるのですから。ダイアモンド級であるニクイルャンさんも、それは分かっていた筈なんです。なのに、そうしなかった。そこには何らかの理由があるのではないか、そう思えてならないのです」
「……考えすぎ、ですかね。ザニィさんにそう言われると、逆に自分の考えが正しいのではないか、と思えてくるのですが……。冗談です、落ち込まないで下さい。ただ、不足の事態は考えておくべきだと思っただけです」
「ああ、店主さん。閉店の時間ですね、はい、了承しました。いつもこの場をお貸しいただき、ありがとうござます」
「それでは、今宵はこれまで。明日のクエストも無事に終わらせて、またこの場所に集まりましょう。私達に、ザイザル神の祝光あれ」
アリシアがそう締めくくり、作戦会議は終わりを迎えた。
明日は朝が早い。店がもうすぐ閉ることもあって、今日はここで解散の流れになった。
アリシアはサンザイザル教第13教会に住む家族の元へ、ザニィはタォキ流の師範代の元へ、オレとマユーはボロい宿舎へ帰るのがいつもの流れだった。しかし、今日は違った。宿舎に帰ろうとするオレとマユーの元へ、ザニィが駆け寄ってきたのだ。
「ガディ、ちょっといいか」
「何だよ、ザニィ。明日は大事なクエストがあるんだ、酒なら飲まないぞ」
「違えって。男2人で積もる話がしてぇのよ、オレは」
どうもふざけた話じゃなさそうなので、まあそれなら良いか、とマユーに断りを入れる。
「らしい。悪いけど、先に帰っててくれないか」
「え、あ、うん。そういうことなら……」
急に、目に見えて元気がなくなるマユー。その様子を面白そうに見詰めるザニィは、オレの肩に手を置いてニヤリと笑う。
「大丈夫だ、すぐに終わる。お前のガディ兄を取ったりはしねぇから、その辺で待ってろよ」
「ばっ、バカ! バカザニィ! 死ね!」
「……?」
頬を赤らめるマユーを見て、また面白そうにニヤリと笑ってから、ザニィはオレと肩を組んで店の入り口横まで移動した。
「で、何だよ、話って」
「……いや、まあ何だ。オレ達も、とうとう来る所まで来ちまったなと思ってさ」
そう言って、ザニィは店の壁についた刀傷に触れる。
この刀傷は、オレとザニィの2人で≪光の剣≫を結成して間もない頃、他の冒険者と荒事になってつけてしまった傷だ。その後店主に大目玉を食らって、罰として1週間皿洗いをさせられたのは苦い思い出である。
「確かに、アダマンタイトになれるなんて、あの頃のオレ達じゃ考えられなかったな」
「”ガディ、ザニィのへっぽこコンビ”、”孤児院育ちに、夜盗くずれの能なし共”。そうやって馬鹿にされてたオレ達が、今やこの世代で1番の出世頭だ。勿論、オレ様の功績が大きいけどな」
「ああ、その通りだ。感謝してるよ」
「だから冗談だっての。真に受けんなよな、このド天然が」
脇腹を小突かれ、オレは反射的に苦笑いを浮かべる。
「いや、実際ガディはよくやってるよ。昔は肩を並べられていたのに、今じゃおんぶに抱っこ。置いてきぼりだ」
≪光の剣≫を結成した当初は、まだお互いに実力差はなかったと思う。ただ、日々を重ねてクエストをこなしていく内に、ザニィは実力をメキメキと伸ばしていった。夜盗くずれとバカにする奴らも、実力を見てその口を閉じるほどに。
そこにアリシアが加わり、マユーが加わり、≪光の剣≫は爆発的な急成長を遂げた。
だからこそ、時折考えてしまう。果たして自分は、ザニィと、チームの皆と、対等な立場でいられているのかと。
「ばーか、オレ達は対等だよ。今も昔もな」
オレの心を見透かしたように、ザニィは言う。店の壁に刻まれた刀傷を、そっと優しい手つきでなぞりながら。
「違いがあるとすれば、それは伸びた力の方向性だけだ。オレは剣術、お前は咄嗟の判断能力。必要なものを瞬時に見抜く力を、お前は誰よりも持ってるんだぜ。冗談抜きに、その分野だけはあの完璧超人のアリシアちゃんを凌いでいると、オレは思ってるね」
「無属性のオレが、か?」
「無属性だからだよ。お前は、自分に力がないと知りながら、それを補うだけの努力をしてきた。考えても見ろ、魔術を一切使わないでアダマンタイトになった冒険者なんて、どこを探してもお前だけだぜ」
「それは、オレがお前達に助けられているからだよ」
「そして、お前がオレ達を助けているからだ。オレやマユー、アリシアちゃんを繋ぎ止めてるのは、紛れもなくお前なんだぜ。少なくとも、オレはそう確信してる。だから、ちったぁ自信持てよ、兄弟」
また、脇腹を小突かれる。
ザニィはオレと2人きりのとき、こうしてよく脇腹を小突くのだ。オレも昔は小突き返していたけれど、いつの間にか反射的に苦笑いを浮かべるようになっていた。おそらく、置いていかれてしまったと、心に劣等感を感じているからだろう。そんな自分がたまに嫌になる。
「なんだよ、ザニィ。オレを励ますために、わざわざ呼び止めたのか?」
「それもある。実際、ガチガチに緊張してるだろ、お前」
「誰だって緊張するさ。むしろ、お前はしてないのかよ?」
そう聞くと、それなんだよなぁ、と言ってザニィは後頭部をかいた。
「正直、めちゃくちゃ緊張してる。つーか、そっちが本題だ。いいか、良く聞いてくれ」
いつになく、ザニィは真剣な顔をしていた。それに合わせて、オレも緊張してしまう。そして――
「このクエストが終わったら、オレはアリシアちゃんに告白しようと思う」
「はぁ!?」
予想だにしない言葉に、オレはつい声を上げてしまった。おい、と短く声を発し、オレの口を押さえるザニィ。離れた位置にいるマユーに話を聞かれていないか確認してから、ホッと息を吐き出した。
「声が大きいっての。あの魔術オタクに聞かれたくなかったから、こうしてお前だけに話してんだかんな」
「いや、だって、なぁ……。あの、アリシアだぞ」
「なんだよ、お前も気があったのか?」
「そうじゃないが……」
アリシアは高貴な家の出だ。容姿は整い、頭も良く、冒険者としてもオレより遙かに実力があって、ハッキリ言って高嶺の花。それ故か、恋愛対象としては1度も見たことがなかった。そして、それはザニィも同じだと思っていた。
「お前、自分が何言ってるか分かってるんだよな?」
夜盗くずれのザニィと、サンザイザル教第13教会神父の愛娘アリシア。その関係は、冒険者仲間としてなら釣り合いは取れているが、恋仲となると話は違ってくる。もし仮に告白が成功したとしても、不釣り合いだ、分不相応だ、と世間は冷たく言うだろう。
しかし、ザニィは確かな口調で言う。
「ああ、本気だ。このクエストが終わったら、オレはアリシアちゃんに告白する。その気持ちに揺らぎはない」
「そうか」
こうと決めたら、こいつの意思は揺らがない。だったら微力ながらも力を貸してやることが、このオレに出来る精一杯のことだった。
「失敗しても、やけ酒には付き合わないからな」
「なんでフラれること前提なんだよ。つーか、オレが話したんだしお前も話せよ。恋バナしようぜ、恋バナ」
「遠慮しとくよ。オレに、恋愛対象として好きな異性はいない」
今の今まで、クエストをこなすことで精一杯だった。チームの迷惑にならないようにしよう、冒険者として少しでも腕を磨こう。そういう想いばかりが先行しているからか、色恋沙汰には疎かった。
「マユーのことはどう考えてるんだよ。お前、あいつとは付き合い長いんだろ?」
「長いには長いが、そういう目で見たことないな。恋愛対象というよりは、妹って感じだ」
「……そうかい。そりゃ、気の毒なこって」
「気の毒って、何が?」
「独り言だ、忘れてくれ」
また困ったような顔をして頭をかくザニィ。1度夜空を見上げ、その後もう1度店の壁の刀傷を触り、オレに拳を突き出す。
「明日は頑張ろうぜ、兄弟。んでよ、アリシアちゃんが言ってたみてぇにもう一度この店に集まって、告白成功の祝杯を上げるんだ」
「勝ち気なヤツだな、お前は」
「おうよ。そのくらいの気概を持ってこそ、男ってもんだ」
お互い、駆け出し時代のガキの頃のように無邪気に笑う。そして、コツンと、お互いの拳を合わせる。クエストと告白の成功を祈りながら、ザニィは風のように去って行った。
ザニィを見送りながら、オレはマユーの元まで戻った。すると、暇を持て余していたんだろう。彼女は地面に、木棒で何か模様のようなものを書いていた。
「悪い、待たせたな。なに書いてるんだ?」
「魔術構文と、それに伴う神言。中間層と出力層をもうちょっと弄れば、今開発してる魔術が完成しそうなんだよね。この部分、ガディ兄はどう思う?」
「さぁな。基礎ならともかく、中身を弄るとなるとまるで分からん。それよりも早く帰ろう。さすがに、これ以上は明日に支障が出る」
「はーい」
勢いよく立ち上がったかと思うと、マユーは『ヒノタマ』と唱え、木棒の先端に火を灯した。正確には、木棒の先端から少し離れた位置に火球が浮かんでいる。魔術学会によって一般公開されているランタン魔術は、赤系統の魔力色の持ち主ならば誰でも使える簡易的な灯火だ。
暗い夜道が火球によって照らされる。あどけない彼女の表情が、優しい光によって浮かび上がる。
「で、バカザニィとは何話してたの?」
「昔話だよ。店の壁に付けた刀傷の話。ほら、オレが孤児院出て2年目にやらかしたって、前に話しただろ」
「あー、それね。長期休暇であっちに帰ったら、マザーがご立腹だったやつだ。丁度同じ時期にあたしも学院の教室爆発させてて、顔を見せに帰ったタイミングが被ったせいで2人一緒に叱られたっけ」
そんなこともあったな、とまた懐かしい気持ちになる。
オレとマユーは同じ孤児院の出だ。違う村で魔物に家族を殺され、孤児院に拾われてから7年間は同じ屋根の下で暮らした。2才差の、兄と妹の関係だった。しかし、マユーは12才の年に高度の魔力適性を見いだされ、由緒ある魔術士の家系に養女として引き取られた。当時14才だったオレは、嬉しさと寂しさの両方を感じながら、手を振って送り出したことを覚えている。
その1年後、オレも孤児院から独立し、職を得ようとこの街にやってきた。そのとき出会ったのが、当時夜盗をしていたザニィだった。手荷物を全て奪われたオレと、親に盗みを強制されていたザニィ。取っ組み合いの末、何故だか意気投合してしまい、夜空の下でお互いの夢を語り合った。オレは手に職をつけて、孤児院の皆に美味しい物を食べさせてやりたかった。ザニィは夜盗を抜けて、日の当たる世界で冒険者として暮らしたかった。お互いの夢は重なるんじゃないかと、オレ達は目を輝かせた。実際、その話は上手くいった。街の警備隊に話をつけたオレ達は、夜盗の一団を誘導して罠にはめた。仲間を売った恩赦として罪を逃れたザニィは、晴れて表舞台の住人となった。そこから、チーム≪光の剣≫は始まったんだ。
過酷溢れる生と死の最前線にこそ、神の威光を示さねばならないのです。そう言ってアリシアがコンタクトを取ってきたのは、オレとザニィが18才を迎え、ゴールド級に昇格したばかりの頃だった。資金面での援助と、魔術師としての役割を全うする。そう言って、アリシアは自分を売り込みにきた。最初は、お嬢様に冒険者は無理だろうと思っていたが、魔物に気後れしないタフネスさと、超人的な視野の広さ、更には後衛役を任せられるだけの魔術師としての素養を持っていたことも相まって、≪光の剣≫は3人チームになった。
そして、その2年後、バリアン魔術女学院での基礎教育課程が修了したマユーは、アリシアと同じように、≪光の剣≫に自分を売り込みに来た。最初は、妹を危険な目に遭わせてはいけないと硬く思っていたのだが、それ以上に本人の意思は硬かった。結局、オレが折れる形でマユーは冒険者になった。今では一緒にクエストをこなし、一緒に孤児院へ仕送りをしている。
「先月帰ったときも、マザーに怒られたよね。いい加減冒険者なんてやめて、普通に働けって。もうアダマンタイトなのにさ、あたし達」
「それだけ大切に思ってくれてるってことさ。オレ達をあれだけ叱ってくれるのは、マザーだけだ」
「……そうだね」
返答に、少しだけ間があった。灯火に照らされる彼女の顔に、暗い影が差した気がした。
「今の両親は、何も言ってこないのか?」
「うん、今の所はね。2人とも、暫くしたら冒険者は辞めるもんだと思ってるみたい。今は修行中で、それが終わったらあたしはちゃんと魔術学会に入るんだって信じてる」
その口ぶりから、あまり乗り気でないことは分かった。
チーム≪光の剣≫にとって、今やマユーはなくてはならない存在だ。チームメンバーとして、離脱はして欲しくない。けれど、兄としての立場からすれば、やはり妹には安全に生きて欲しいと思ってしまうわけで。孤児院で彼女を見送ったときと同じ、複雑な気持ちが心の中で渦巻く。
「どうするつもりなんだ?」
「……正直、かなり迷ってる。魔術の研究は好きだし、今も学会の研究を少し手伝ってるからね。ほら、さっきの魔術構文、あれがそうなの。赤系統に属する空間転移魔術なんだけど、その研究メンバーに正式に加わってくれないかって、この前オファーが来たんだ」
「おいおい、凄いじゃないか! 確か魔術学会の研究員って、魔術師の中でも限られた人しかなれないエリート中のエリートだろ? 開発される魔術の数々は、どれも幾千もの人々を救ってるって言われてる」
「うん、そう。あたしも驚いてるんだ。ほら、あたしって1度、魔術学会の話を蹴ってるじゃない。目を付けられてると思ってたから、尚更ね」
嬉しい話をしている筈なのに、やはりマユーの表情は晴れなかった。彼女にとってこの選択は、将来を大きく左右する選択だ。悩むな、という方が無理な話なのだろう。
「でもね、冒険者として魔物を倒して、色んな人の役に立つ今の生活も好きなの。研究職よりも、身近な人達を助けられるっていうかさ。それに、……のために魔術を使うことが、ずっと昔から、孤児院にいた頃から、あたしのやりたかったことだったから……」
徐々にマユーの語調が弱くなっていく。いつもの燃え立つ炎のような自信が、今は火の粉のように弱々しい。
こういうとき、普通なら気の効いたアドバイスを言ったりするものなのだろう。だけど、オレはそんなことはしない。魔力のない無属性のオレが、将来有望な彼女の未来に口を出すなんて、おこがましいにも程があると思っている。
「オレは、どっちでも良いと思う」
「……厳しいね、ガディ兄は」
「しょうがないだろ。お前のやりたい事は、お前にしか決められないんだ。精一杯悩むのはお前の仕事だし、その結果泣いたり、笑ったりするのはお前の特権だ。だから、その代わりと言ったら何だけどさ――」
だから、オレに出来ることは――
「お前の選んだやりたいことを、オレは全力で応援するよ。それがオレのやりたいことだから」
「な……ッ!」
驚いた様子で、彼女はオレの顔を見た。勢い余って、彼女の手から木棒がスルリと落ちる。灯火は地面に落ちて消えたけど、彼女の頬がまた紅潮したことが、暗い夜道の中でもはっきりと分かった。
声にならない悲鳴を上げて、彼女はクルリとそっぽを向いてしまう。気付けば、宿舎はもう目の前だった。
「バカ! このド天然! もう知らないんだから!」
オレを置いて、自分の部屋まで走って行くマユー。どうやら困ったことに、彼女を怒らせてしまったらしい。しかし理由を探しても、一向に分からない。
下手に何か言うのは逆効果か。そう思ったオレは、特に何かするわけでもなく、いつも通りの言葉を彼女に投げかける。
「じゃあな。また明日、マユー」
彼女はその場で立ち止まる。そして、観念したかのようにガックリと肩を落とし、ふて腐れた声で言葉を返した。
「うん。ばいばい、ガディ兄」