1.プロローグ
『なめらかな世界と、その敵』というSF小説に触発されて書きました。
毎日12時に投稿していくので、どうぞ楽しんでいって下さい。
荒涼とした空気が漂う、カーテンが閉め切られた部屋の中。
ベットの上で一緒に横になり、もう少しで寝付きそうである坊やの髪の毛を撫でながら、これから先に待ち受けているであろう自分の運命に、そして坊やの運命に思いを巡らせ、暗い闇の中で沈黙していた。
不意に、ピカッと外の光がカーテン越しに漏れる。
また、空から光の剣が落ちてきたのだろう。落雷のように、それは少し遅れて大地を、空気を轟々と揺らした。
「お母さん、またアレを聞かせて」
世の中のことなどまだ何も知らない坊やは、寝ぼけ眼をこすりながら、やはり眠たそうな声であたしに言った。その声に反応して、あたしは横一直線に固く結んだ口を解き、頬を緩ませる。
「またアレなの? 坊やは本当に好きなんだね、”勇者の御伽話”」
「うん、すきだよ。アレを聞くとね、なんだか身体がポカポカして、フワフワして、ぐっすり眠れるんだ」
まだ坊やが言葉を喋れない頃から、寝物語にと、あたしが口にしてきたからだろか。実話を元に作られた”勇者の御伽話”を聞くと、坊やは条件反射的に寝てしまうのだ。
痛みも知らず、健やかに。
恐怖も知らず、安心して。
あたしは、坊やのその寝顔が好きだった。狂おしいほど愛おしかった。
遙か昔に刻まれた、永遠の愛。
だから、いつものように坊やの頭を撫でながら、あたしは代わり映えのしない物語をまた口にしようとしているのだ。
ぐっすりとお眠り。心の中でそう告げてから、あたしは頭の中で思い浮かべる。
かつて、あたしの親の、その親の、そのまた親のご先祖様が、強大な敵から生存と勝利を勝ち取った光景を。そして、今尚続く争いの火種が、優しく点火した瞬間を。