⒍結心の秘密と誘惑。
もうすぐ冬休み。そしてクリスマス。学校も午前中だけの授業が多くなり、部活で午後もある紅葉の為に弁当を作って渡している。食べてすぐなのだろうか、彼はいつもの「美味しかった」とメールをくれる。部活を頑張れるなら勇気づけにいつでも振る舞う。疲れた身体も温められるようなホッコリとした関係。
『もしもし〜ゆいー?』
「・・・ママ?何?」
『冬休みっていつから?紅葉くんと冬休みこっちにおいでよ。』
父親の転勤の都合で引越しした母親からたまに来る連絡は唐突なことも多いが、何も理由もない時もあれば理由があって来る時もある。結心の方にかかってくる時は大概理由がある時だ。
「・・・うーん。紅葉が部活あるし、紅葉に聞いてみないと分からないから帰ってきたら聞いてみる。」
『あら、まだ紅葉くん居ないの?いやー紅葉くんとも話したかったのにー。』
「しょうがないじゃん。紅葉、今日部活の後バイトだって言ってたし。まだ帰ってこないよ。」
母親の子供のようなぐずり方には呆れる。
『そう。じゃあ、帰ってきたら聞いて連絡ちょうだいね、メールでもいいから。』
「うん。わかった。」
母親は紅葉がお気に入りのようで紅葉と話したがるが、正直言うと彼を渡したくないので話して欲しくないのが本音。
今は本当にいないからそのまま切って携帯を置こうとすると紅葉からのメールが入ってることに気がつく。『外は寒いよ。暖かくしてる?部活は終わったのでバイト行ってきます。』と報告が。
「・・・寒いか、今日は鍋にしよう。」
夕飯を決めると、紅葉に頑張れと言うメッセージを返して準備に取り掛かる。お気に入りの音楽を聴きながら鼻歌交じりに進めていると、『帰るよ』の一言連絡がきた。もうすぐ帰ってくる。それまでに夕飯を仕上げておかないとならない。
味の調節して、野菜の具合を確かめていると、ガチャと鍵の開く音がして帰ってきた。
「ただいまーゆい。」
「・・・おかえり。ご飯ちょうど出来たよ。」
「さすがゆい。今日は何?」
玄関でそんなやり取りをして、出来上がったご飯を2人で召しあがった。今日も美味しくて体の芯まで温かくぽかぽかになった。さらに風呂で体を温めて寝る準備は万端で寝床に付いた。
「・・・あ、そうだ紅葉。ママが冬休みこっちにおいでよだって。部活あるよね?」
「あぁ、28から4日まではないよ。バイトも入れてないし。」
「・・・そっか、じゃあそう返事しとく。」
親にお願いされていたことを聞いて、すぐ連絡をすると、いかにも母親らしいというかメールではなく直ぐに電話がかかってきた。
「・・・電話・・・もしもし?」
『あら!紅葉くん!話したかったのよー!』
「あ、はい。」
2人の時間を過ごしかけていたが、電話で我に返った・・・と思いきや、紅葉は電話をスピーカーにして出て、結心へのイタズラは辞めようとしない。体をするすると触りながら、話の受け答えをしている。結心は母親に気が付かれまいと、声を堪えるので精一杯。なのに、
『ところで結心は?』
「あぁ、居ますよ。」
「・・・やっ、!かえでっ!」
声を抑えていたのに紅葉のイタズラは確実に楽しんでいるし、耐えられないほどに虐められて声を出してしまった。
『・・・あら、私はお邪魔な感じかな?』
「お邪魔ではないですけど、俺たち明日も早いんで寝させてください。」
それは遠回しに邪魔だと言っているってことですよ紅葉くん。密かに結心は思う。
『・・・ふっ。わかった。じゃあ来るの楽しみにしてるからね!』
「・・・はい。じゃあ、また。」
「・・・かえでのバカ。」
電話を切ったのを確認して言うと彼は、電話で寝ると言った割に元気でイタズラを辞めるどころか激しさを増しているような。
「・・・バカでいいよ。ゆいの秘密を暴いてやろうとしてんだよ。」
「・・・秘密とこれ関係ない・・・!」
「・・・いや、あるな。知ってるか?ゆいは何か隠している時、必ず首を抑える。そして目をそらす。」
言われて気がついたが、関係ないと言いつつ結心の手は首を抑えていた。彼はいつの間にそんなことを見破っていたのだろうか。彼になにか今秘密をとき明かされそうになってるもの以外で隠し事をしたことはあっただろうか。
「いつの間にって思ってんのか?友達に隠してんだろ俺との関係を。俺とのこと持ちかけられると決まってそうしてるからな。」
「・・・紅葉ってよく見てるね。」
「あぁ、お前限定だけどな。」
そう彼の観察は結心限定。他のことなんて特に見たって覚えちゃいない。彼の中じゃまだ結心以外の人を信じて居ないから。きっとこの先もそれは変わらないかもしれない。
「・・・本当は秘密にしてることがなんなのか、気がついてる?」
「・・・さぁ?どうでしょう?」
きっと気がついている。だけどわざと知らないふり。なんたって楽しそうに笑っているから。意地の悪い笑みを浮かべて。
冬休みに入ったその日恋人達のクリスマスは紅葉から結心へお揃いの指輪をプレゼントされ、結心は紅葉に美味しい豪華な料理をプレゼントして、お互いに求めあって。
「ゆいー!行くよー」
「はーい待って。」
約束の親の所へ行く日の朝、準備に手間取って・・・いや、紅葉に自分の作ったご飯しか食べて欲しくない!なんて最近独占の為に毎日作ってる弁当を最後に入れ忘れそうになって居て。紅葉が独占欲強いなんて思ってたけど結心もなかなかの独占欲。
「・・・おせぇ。」
「ごめっ・・・んっ!?」
「・・・さて、行こうか。」
慌てて紅葉に近寄ると文句を言って唇を奪い取って少し照れ、先に荷物を持って出ていく。荷物もちは紅葉だ。怪我が治り切ってない結心に持たせたくないからと言うが、たぶんそれだけじゃない。
そうして親の所へ向かったふたりは年末年始はそちらで過ごし、冬休みを過ごした。
「結心〜、紅葉くんあけおめ。はいお年玉。」
「あけましておめでとうございます。俺にもくれるんですか。」
「・・・もちろん!紅葉くんはもう息子同然よ。」
お年玉まで貰って、結心の親戚一同にも会って温かい家庭に久々に触れた紅葉にとってはとても充実した日を過ごせた。
「・・・なぁ、結心。ばぁちゃん家に寄って帰ろう。まだ新年の挨拶してねぇし。」
「・・・うん、」
紅葉家のおばあちゃんもおじいちゃんはとても優しい人で、紅葉の育ての親でありおばぁちゃんとおじいちゃん。
「あんた、お墓参りした?」
「・・・してない。」
「なら、結心ちゃんと行っといで。お母さんたち喜ぶわ。紅葉が成長したって。」
「・・・うん。けど今日やめとく。結心まだ怪我治り切ってないし。今日俺の都合で振り回してるし。」
おばぁちゃんは優しくそっか。と言うと帰り際にお年玉とポチ袋を渡された。結心の分まで。
そんなこんなでお正月も、冬休みも楽しく仲良く過ごした2人。
冬休み明けの学校で友達みんなと挨拶を交わす、そんな日々が戻ってくる。そして年が明けて1ヶ月の半分過ぎた頃の1月中旬、ようやく結心の怪我も完治した。
「・・・治って良かったな。あのさ、早速だけど、俺の両親の墓参り一緒に来てくれねえかな。」
「・・・うん、いいよ。」
「ありがとう。高校入ってから1度も行ってねぇんだ。」
それはつまり1年以上行ってないということで、寂しげに言った彼の中に行かなかったのには大きな理由がありそうだ。一緒に行くと彼は「彼女だ」と両親のお墓の前で紹介してくれた。その後彼が何を話したか分からない、無言で手を合わせて何かを願っているようだった。
「結心〜!怪我治ったんだね!」
「うんお陰様で。」
「良かったね!」
学校で友人達も喜んで安心してくれた。怪我をする前のように運動神経のよい結心はとても活躍する、元の生活に戻っていった。
紅葉との関係についてはまだ友人達には話していない。聞かれないし学校ではいつも通りの2人に誰一人気がついていない。むしろ誰も知らないからこそ、紅葉はよく女子に呼び出されている。
「・・・相変わらずモテるねぇ。黒崎は。けど前とは違うらしいよ断り方が。」
「え?そうなの、なんて?」
「なんかね、話によると誰か大事な人からてきな感じらしい。んで、みんな我こそはって告白しているらしいよ!」
結心は思った。その大事な人とは私のことだと。決して言わないが。
怪我が完治するまでの内緒のつもりだったが気が付かない周りにこのままだまし続けるのもいいかなと思いはじめていてそういう話は逸らしている。
「・・・紅葉めっちゃ告白されてるよね。」
「ん。元々そうだったけど。何、嫉妬か?」
「・・・・・・」
紅葉と2人になると、嫉妬心がむき出しになる結心。それを見破られるとなんも言えなくて、
「結心、まだ話してないんだな友達にも。」
「・・・だって聞かれないし。」
「・・・ふっ・・・俺みたいなこと言ってんじゃん。」
きっと言えばいいじゃんといわれている。なのに言わないから嫉妬心が芽生えると分かっているけど、気がつくともう数ヶ月毎日一緒に過ごしてきて性格もうつってきてしまっている。
「・・・紅葉のせい。」
「俺のせいね・・・。んな事言ったってな。言えばいいのに。『私のだ』って。」
「・・・まだ言わない。」
紅葉とはきっと離れられない運命だ。今は秘密にしていていもいいかなと思った。なのに告白されているのを聞くと嫌だった。
「聞いたくせに。俺が断ってること。それにどういう理由で断ってるかも。」
「・・・・・・ん。」
「じゃあ、分かるだろ。理由もすべてお前が居るからだろ。お前しか愛してねぇよ。」
あった時とは考えられないくらい、結心を信じてくれる彼が、言うと説得力がある。
「・・・知ってるよ。」
「なら、いいだろ。」
「・・・うん・・・」
でもなんだか不安・・・。それが本音。でも言えない。しかし彼に前指摘された嘘発見法を無意識にしていたのだろう。彼の顔色が変わったことに気が付かないで目を背けたままでいた。それが彼のイタズラ心に火をつけた。
「ゆい。その不安無くしてやるよ。」
「・・・えっ・・・ちょっ・・・かえでっ。」
「なぁ、ゆい。俺がお前の秘密に気がついてること分かってるよな?今からそれをして。」
いきなり別のことを考えさせられる頭。とんでもない発言。秘密とは口に出して言えるような秘密でもないし、しろと言われて好きな人の前でできる事でもない。
「・・・しないなら、俺への愛がないと解釈するけどいい?」
「・・・いじわる。」
「・・・あぁ、愛のあるいじわると言って欲しいね。」
彼のいじわるは歪んだ愛のイタズラ。いじわるしたくなるのは好きだからこそで困らせたい。自分のことで悩んで欲しい。
「・・・ば・・・か・・・えで。」
「なんとでも。・・・やべ・・・思った以上にそそる。」
秘密が誘惑。だから秘密だったのに、彼の見破りにはいくら隠していてもどうしても破られてしまう。悩んで欲しい彼の思惑通りに悩ませる。
「・・・そういや、お前俺との関係を話せねぇの?」
「・・・かえでだって話さないじゃん。・・・もう少ししたら話すつもりだもん。」
「・・・俺は話す気ねぇし。ゆいが話すなら、それでいいし。」
独占欲。2人の関係の中の独占欲はどこの誰よりも強いだろう。お互いを気がつけば気がつくほど、増えている。それなのに学校では内緒のまま。果たしてこのまま内緒にし続けることが出来るのか。それともみんなの前でバラしてしまうのか。2人の関係はどうなって行くのだろうか。