⒊結心目線
2年になってから半年がたった。
紅葉との仲は相変わらずである。でも一つだけ私にも分かったことがある。
それは私が紅葉が好きになっているということ。あの日の運命の出会いは紅葉の事だったのだろうと思っている。
「・・・おーい!占い女!これやる。」
そう言ってくれたのは今日の占いのラッキーアイテムだったりするが、そんなことよりも呼ばれ方が気に食わない。
「占い女じゃない!私にはおとぎ話に出てくる『アリス』と言う可愛い名前がありますぅー。」
「・・・いや、それ苗字がだろ。お前は結心だろ。」
ちょっと気に食わない呼び方されただけで、突っかかりたくなってしまう。
それだけ彼に『結心』と名前で呼ばれるのが嬉しかったりもするから、気に食わない呼び方をされると訂正させて呼ばせたい。
「・・・この人間不信野郎。」
「俺だって、人間不信野郎って名前じゃありません。黒崎紅葉と言う名前がありますぅー。」
からかうつもりで言うと紅葉に言い返し方を真似される。
「・・・いや、そうだけど。紅葉は人間不信な上に、占いも信じない。だからそう言っただけ。」
ちょっと真似されたことにイラッとしちゃった私は、こんなこと言ったら喧嘩のなるかななんて思いながら口にしてしまうのはバカかもしれない。
「・・・当たりもしないのに馬鹿みたいに占い信じてるやつに言われたくない。信じて何がいい。何が楽しい。何もいい事ないだろ。」
「・・・そんなに信じない理由があるわけ?」
「・・・それは・・・教えられない。教えたところで信じて貰えるとは思わない。」
せっかく信じて聞いてあげようという気があるのに彼は言おうとしない。それだけ彼の心は何かが原因で傷ついている。その何かを取り除かなければ、彼の頑なな意思は変えられない。
「・・・ねぇ、紅葉。今日紅葉は良い運勢出てるんだよ。内に秘めている感情をさらけ出すと良い方向に向いてくるでしょう。って。紅葉で勝手に占わせてもらったよ。」
話さないだろうと思いながら、勝手に占ってやった結果を述べてみる。
「・・・勝手に占ってんじゃねぇ。それに内に秘めている・・・ことなんてねぇよ。」
「・・・あるよ。紅葉には。いっぱい。」
あんたがいっぱい抱え込んでるのは知ってるよ。けど信じてないから言わないことも。だから言わないだろうなと思いながら口にしてみた。
「・・・気が向いたら・・・話すよ。今はまだ話せない。」
「・・・ふーん。やっぱりあるんだね。人には話せないような話が。」
「・・・うるせぇ。」
怒ったような顔だけど、たぶん彼は照れている。半年も彼といてだいたい分かるようになった。
「・・・じゃあ、その気が向いた時に聞いてあげる。」
「・・・一生来ねぇかもな。お前に教える時は。」
憎まれ口たたく彼に人に言えない事情を抱えていることが分かったし、いずれ教えてくれることを願うとしよう。
彼とはその彼が秘密にしていることを喋れる時が来ればきっともっと仲良くなれると信じている。
「・・・もう。そんなんじゃ友達いなくなるからね!」
「・・・そうなったらなったで別にいいし。俺は1人で生きていくからな。」
「馬鹿じゃないの。人間関係築いていないと困った時に誰も助けてくれないよ?」
どんなに丸め込もうとしても言い返しがやって来ては彼は全て1人でいいんだ。という答えになってしまう。
「・・・生憎、俺はモテるようなんでなんかあれば誰か助けてくれんだろ?」
「そんなこと言ってるようじゃ、一生助けてもらえないね。」
毎日のやり取りは落ち着いてきたほうだと思っている。紅葉がなにか理由があって彼が言わないことがあること。それを理解したからこそいちいち突っかからなくても言葉を選べば普通に話せると分かったから。
「・・・そう言う結心の今日の運勢はどうだったんだよ。」
「何?興味あるの?私もいいよ今日は運がついてくる日だ。さっき紅葉が、くれたのもラッキーアイテムなんだ。」
「・・・いや、別に興味無いけど。俺の事占っといて、気になったから、聞いただけ。」
疑問に思い聞き返すと彼はそう言っていた。
「何それ?」
「・・・聞いちゃ悪いかよ?」
「・・・いや?全然。」
私は少し苦笑しながら言った。
最近では紅葉の方から私の占い結果を聞いてくることもあるようになった。興味はないとは言っているが少しは信じる気にもなったようだ。
あえてそう思ったことは言わないが、彼の中で少しずつ心境の変化があることには代わりがないであろう。
「・・・最近クロさ、アリスちゃんの前では落ち着いたね。なんて言うか、アリスちゃんならたぶん信じてもいいって思ってる。」
「・・・?そうかな。相変わらずだと思うけど。」
「ううん、あいつなんか前より表情柔らかくなった。」
紅葉の友人で、今では私の友人でもある、三島くんが紅葉が少し席を離れた隙に私にこっそりと話してきた。
友人として彼が少しでも打ち解けられる相手が出来て嬉しいのであろう。
「そうかな?でも、何となく紅葉の表情の裏に隠れた何かあるのはわかったけど。」
「・・・うん。あいつ意外と鋭いから、アリスちゃんが、気がついてることも分かってると思う。」
「うん。そうかもね。」
三島くんは彼のことをよく見ている。友人として、心をもう少し許して欲しいのだろうか。信じて欲しいのだろうか、彼のことを観察していて、変わっていく中心にはいつも結心がいると、三島くんは言った。
「・・・おい、俺のいない間に何を話しやがった。三島。」
「え?大したことじゃないよ、ね、アリスちゃん。」
「うん。気にしないでよ。」
「・・・ふーん?」
まさか紅葉のこと話してたなんていったら、嫌がるに決まってる紅葉はそう言うやつだから。三島くんもわかっているから誤魔化した言い方をしているのだと直ぐにわかった。
そんなこんなでいつもの様に話して楽しい1日は終わってしまう。
みんなと学校で別れ紅葉と一緒に帰り、いつもの分かれ道。
「・・・またね!」
「あぁ、また。」
そう言って、紅葉と別れて私は自分の家の方面へ歩いた。普段は車通りの少ない道で車と車がすれ違うのもやっとくらいのその道を車は油断してるんだかスピードをそこそこ出している。危ないなぁといつも思いながら気をつけて通ってるが、今日も気をつけて通ろうと道の端っこを歩いた。
しばらく歩くと前からスピードを出した車がやって来て壁にへばりつくように止まると、先程来た道の方からも車がスピードだして来ていた。ちょうど同じくらいの距離感で迫ってくると思いつつ待っているとそのまま目の前まで来たと思ったらその後の記憶がプツンと途切れてしまった。
「・・・結心!!?」
薄れゆく意識の中誰かに呼ばれたような気もしたが気のせいだろうかとそのまま意識は遠のいていってしまったので、何が起こったのかさっぱり分からないまま死んでしまうのかなと三途の川を拝みかけていた。