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希望と、絶望

 「これは・・、人間の子供ですか?? 何でこんなところに・・。」

 リリスはシルバーナの目の前に立っている4~5歳程度と思われる男の子の姿を目の当たりにし驚きの声を上げると、急ぎアスベルに魔通信を送ろうとするが、シルバーナがそれを制止する。


 「待って。いま隊長に知らせたら周りの隊員にも知られるかもしれない・・。」


 「で、ですが報告しない訳にも・・」


 「お願いリリス。」

 リリスはシルバーナの真剣な眼差しにしばらく考えた後、魔通信を送ることを中断した。


 シルバーナさんがこんなに真剣な目を向けるということは何にか事情があるに違いない・・。

 それが何かは私には分からないけど・・。


 「分かりました・・。ですがこの子は一体何者なんですか?! 服も来てないし、凄い臭いが・・。」


 「・・・あなた私の言葉が分かる?」

 コクッ。 シルバーナはリリスの質問には何も答えずに目の前の男の子に話しかけると、自身の言葉に反応を見せたその子に驚きの表情を浮かべた。


 この子、私の言葉が分かってる・・!

 つまり、まだ知性を失っていない人たちもいるということ・・。

 まだ希望はあるかもしれない・・!


 「ねぇ、あなたのお家に連れて行ってもらえるかしら?」


 男の子はシルバーナの言葉に満面の笑みを浮かべると彼女の右手を掴み、しばらく進んだのち一つの建物の前で歩みを止めた。


 「ここがあなたの家・・・。」

 

 そこには巨大な石造りの建物があり、さらにおかしなことにその建物には崩れた個所が全く見当たらなかった。

 シルバーナはそのことに一抹の不安を抱えながらも、右手を男の子に引かれるまま建物に一ヶ所だけある亀裂の間から中に進むと、リリスもその後に続き建物の中に進んでいった。


 「シルバーナさん! そんな無防備に進んでは危険です! それに私の質問にも・・・、うっ!」

 リリスはなおも進み続けるシルバーナに声をかけるが、しばらく進んだ後、あまりの異臭に鼻を覆った。


 なにこの臭い・・。まるで家畜小屋みたいな・・、いやそれ以上の臭いが漂っている。

 それにこの建物はまるで牢屋のようだ。日もあまり差し込まないし、何より湿気がひどい・・。


 リリスは鼻を腕で覆いながらシルバーナの後に続き中を進み続けると、突然広い空間に突き当たりその中の光景に言葉を失った。

 シルバーナもそのことに気づき、男の子の手を握る右手に力が入っていく。


 「シルバーナさん・・、ここは・・・。」


 「・・・・ここは異形の者(ゲスティル)達が飼育する人間達が暮らしているところ。」

 「この人達は・・・・・、奴らの家畜よ。」


 そ、そんなことが・・・・。


 リリスは自分の想像を遥かに超えるシルバーナの言葉を理解するのに時間がかかり、しばらくしてようやく状況を飲み込み始めた。


 「シルバーナさんはこのことを知ってたんですか・・?」


 「・・・・ええ。」


 「ならどうしてそれを皆に言わないんですか?! 私達と同じ人間なんですよ?! こんな扱いを受けていると知っておきながらどうして・・・。」

 リリスがシルバーナの元に詰め寄ると、人間達はその声に驚き奥へと移動し始める。

 しかしその表情には全くと言っていいほど感情を見ることが出来なかった。


 「これが理由よ・・。」

 「この人達は知性がほとんど残っていない。助けた所で私達と一緒に切らすなんて出来ないの・・。」


 「ですが・・! それでもこのまま放っておくべきでは・・」


 「でもね・・、この子は違った。この子は私の言葉を理解してる・・。」

 シルバーナは隣にいる男の子に視線を移し、さらに言葉を続けた。

 

 「この中にもきっと同じ人がいるはず・・! その人達の存在を元老院に伝えれば・・」


 パンッ!! しかし突如建物の中に響き渡った銃声と共に、シルバーナの隣にいた男の子は頭から血を流し地面に倒れ込み、シルバーナがその身体を抱き寄せた時には既に息をしていなかった。


 「・・・誰だ!!」


 ガサッ、ガサッ・・。シルバーナが振り返り叫ぶと、ゆっくりと近づいてくる男の姿を確認する。

 その男の装備はシルバーナ達とは違い青く光を反射していたことから、シルバーナがその男がヴィリー・ヘス中尉であることに気づくまで長くはかからなかった。


 「これはこれはエスティア少尉。やはりあなたは優秀なようだ・・。こうも早く家畜達の隠し場所を探し当てるとは・・。」


 「家畜だと・・! この人達は人間だ!! それをあなたは・・・。」

 シルバーナは腕に抱く男の子の姿に、ヴィリーに対する怒りが湧き上がってくるのを自覚し始める。


 「少尉、口の利き方には気を付けた方がいい。私は部隊は違えど中尉。身の程をわきまえるんだ。」


 「・・・・申し訳ありません中尉。」

 シルバーナはその言葉に何とか怒りの感情を抑え込むと、大きく息を吐きヴィリーへ話を続けた。


 「ですが何故このような事をなさったのか、その理由をお聞きするまでは納得が出来そうにありません。」


 「・・・・・いいだろう、貴官には特別に教えてやる。」

 ヴィリーは銃口を地面に下げシルバーナの目の前まで進むと、ゆっくりと自身の作戦内容を話始めた。


 「元老院はあなたと少佐の報告を受けてから何度も議論を重ね、一つの結論に至った。」

 「ヒリア島には既に人間を受け入れる余裕はなく、かといってこの人達を養うだけの食料も既にない。それに貴官らの報告によれば彼らに知性は残っていない・・。」

 ヴィリーは部屋の奥でこちらの様子をうかがう人間達に視線を移すと、ゆっくりと銃口を彼らのいる方向に向けていく。


 「この人間達を生かしておけば異形の者(ゲスティル)は永遠に滅びない・・。だから・・・。」


 ま、まさか特殊作戦魔導隊の任務というのは・・・!


 「ま、待って・・」

 バババババババババババッ!!!

 彼らの作戦に気づいたシルバーナがヴィリーの動きを阻止しようと動こうとした瞬間、ヴィリーの銃口から無数の魔導弾が打ち出され、人間達は次々とその犠牲となり地面に倒れていく。

 しかし、もはやシルバーナにはその光景を眺めることしかできず、リリスも呆然とただ見つめ続けていた。


 ボシュッ! 魔導弾で全ての人間を撃ち殺したヴィリーはその死体に炎魔法で炎を発生させ、死体が異形の者(ゲスティル)の食料とならないよう処理を行っていく。


 「さぁ、それでは戻ろうか。ここでの任務はこれで終了だ。」

 そう言うと処理をすべて終えたヴィリーは、呆然と立ち尽くすシルバーナとリリスをその場に残し、中隊の元に戻っていく。

 

 「シ、シルバーナさん・・。大丈夫ですか・・・?」


 「・・・ええ。私達も戻りましょう。」


 「・・・はい。」


 しばらく燃え盛る炎を眺めた後、シルバーナはリリスの言葉でゆっくりと立ち上がりその場を後にしていった。














 「全員揃っているな?」

 旧市街地 へリードの中心で合流した第1魔導中隊はアスベルの言葉で点呼を取り、全員が無事であることを確認していく。


 「ヘス中尉。貴官の任務は達成できたのか・・?」


 「ええ、問題なく。エスティア少尉のおかげでですが。」

 アスベルはヴィリーの答えに後ろで整列するシルバーナの元に進んでいく。


 「シルバーナ。彼の言ったことは本当なのか?」


 「・・・・・はい。」

 「ヘス中尉の任務は無事完了。もはやここに残る理由はないかと。」


 「・・・・そうか。」

 シルバーナが表情を変えず答えると、アスベルは何かを感じ取ったのかそれ以上は何も聞かず中隊の前に戻っていった。




 「よし、それでは我々はこれよりベースキャンプに帰還す・・・」

 「敵襲だ!!!」

 ドォォン!! アスベルの言葉で隊員達が振り返ると、こちらに向かい100体程の異形の者(ゲスティル)が建物を破壊しながら近づいてくるのが確認できた。


 くそ・・! 奴らいつの間に俺達に気づいていたんだ!!

 あれだけの数、やれるか・・?! 


 「・・クソ、全員戦闘用意! 各自の判断で攻撃を開始しろ!!」


 ババババババッ!! ババババババッ!!!

 アスベルの言葉で隊員たちが一斉に魔導弾を異形の者(ゲスティル)に放ち、その直撃を受け何体もの異形の者(ゲスティル)が倒れていくが、奴らは数の差を利用し魔導弾の雨を受けながらも中隊のすぐ近くまで迫っていた。


 「くそ、くそ・・・、ぐあぁ!!」

 ブシュゥゥ!! 攻防がしばらく続いた後、最前線で攻撃を行っていた兵士が足元の石に躓き地面に倒れこみ、その体を1体の異形の者(ゲスティル)が捕えた瞬間、無数の異形の者(ゲスティル)が一気にそこへ群がったことで、流石の魔導装甲もついに砕け散り、兵士はその身体を生きたまま食われていった。


 その光景を目の当たりにした他の隊員達の表情は一瞬で絶望に包まれていく。


 「近接戦闘準備! 身体強化魔法を使用し、魔導装甲に魔力を込めるんだ!!」


 「はぁ、はぁ・・。」


 「リリス! 後ろだ!!!」

 アスベルの命令を受け、気を取り直し近接戦闘に移っていく隊員達だが、リリスは恐怖のあまり体が動かず、その背後には異形の者(ゲスティル)がすぐそこまで迫っていた。

 リリスもその存在に気が付き振り返るが、もはや自分にはどうすることも出来ない。


 お兄ちゃん・・! 助けて・・!!


 ブシュゥゥゥゥ!! リリスは自分の顔に降り注ぐ異形の者(ゲスティル)の血で目を開けると、そこには異形の者(ゲスティル)の胸に両手の魔導装甲を剣状に変化させたものを突き刺しているシルバーナの姿があった。


 「シ、シ、シルバーナさん・・!」


 「もう、泣くのは後よ。今はこいつらを何とかしないと!!」

 シルバーナは魔導装甲を異形の者(ゲスティル)の体から引き抜き涙を浮かべるリリスに笑みを浮かべると、中隊に迫る他の異形の者(ゲスティル)達を次々と切り倒していく。


 す、すごい・・・・。


 「・・・私も兵士なんだ! しっかりしろリリス!!」

 

 パンッ! リリスは次々と敵を屠っていくシルバーナの姿に、自分の顔を力いっぱい叩くと、シルバーナに続き敵の元に走っていった。


 



 この日、大陸の偵察を行っていた魔導隊全てに対し異形の者(ゲスティル)達は一斉に攻撃を開始。

 しかし、魔導装甲を利用した魔導各中隊の攻撃によりその全てを退けることに成功した。



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