悪夢の地、再び
ヒュゥゥゥゥ・・・。
まさかこんなにも早く戻ってくるなんてね・・。
広大な大地が広がり、かつての人間の建造物には植物が伝いかろうじてその姿を確認できるものも少なくない。ヒリア島では決して見ることが出来ない目の前の光景に様々な感情が入り乱れながらも、シルバーナは再び大陸に足を踏み入れていた。
1週間前。元老院から軍に発せられた命令にシルバーナは驚愕した。
「何で軍の派遣が決定したんですか!? キーラ様は反対だったじゃないですか?!?!」
命令を知ったシルバーナはアスベルの元に赴くと、声を荒げながら詰め寄る。
「・・どうやらアリア様の意見が最終的には採択されたそうだ。この島が抱える問題を考えた時、他の元老も強く反対できなくなったのだろう。」
そんな・・・。 確かにこの島の食糧問題を考えれば早急な対策が必要なのはわかるけど・・。
これじゃ無駄な犠牲がまた出てしまうかもしれない・・。
「納得できません! もし軍の派遣をするのなら再び先遣隊を送り万全な状態で行うべきです!」
「私がもう一度元老達に・・・」
バンッ!! シルバーナがその場を離れようとした瞬間、アスベルが机を叩きそれを制止しする。
「落ち着け! 今更決定したことは覆らない。こうなっては出来るだけ犠牲が出ないように行動する、我々に出来るのはそれだけだ。」
「それに俺達第一魔導中隊の派遣も決定している。お前も早く準備を始めるんだ。」
「ですが・・!!」
「エスティア少尉! お前の任務はなんだ?!」
なおも反論しようとするシルバーナに対し、アスベルは珍しく声を荒げた。
その言葉にシルバーナは姿勢を正しその眼を見つめながら答える。
「私の任務は異形の者(ゲスティル)から市民を守ることです。」
「そうだ。それが我々魔導隊の使命だ。大陸に人類の生存圏を広げ、食糧問題を解決する。これは最重要課題だ。今回の命令はそれには反していない。」
「それに元老院命令を拒めば最悪拘束される。お前の気持ちは分かるが今は黙って従うんだ。いいな??」
「・・・・了解いたしました。」
「では私はこれより準備に当たります。退出してもよろしいでしょうか?」
「・・・・ああ、下がっていい。」
ザッ。アスベルの言葉にシルバーナは敬礼すると表情を変えずにアスベルの部屋を後にしていった。
しばらくしてシルバーナが退出したのを確認したアスベルは大きく息を吐き、腰かける椅子の背もたれに体重を預ける。
「まったく、強情な所は父親譲りだな・・。」
ギィ・・。アスベルは笑みを浮かべると、目の前の机にある引き出しを開きそこから一枚の写真を取り出した。
そこにはアスベルと、幼いころのシルバーナを手に抱く一人の男性が共に写っており、アスベルはしばらくの間その写真を見つめ続けていた。
「全隊整列!!」
今回の派遣の指令 フリーゲル・バリストン大佐が声を上げると、拠点の設営に当たっていた兵士達は手を止め急ぎフリーゲルの元に集まってくる。
「・・・今回の任務は、この大陸南部に防衛戦を構築し、更に各隊ごとに指定されたポイントを偵察、安全を確かめることだ!」
「恐らく異形の者(ゲスティル)との遭遇もあるだろう。各員、警戒を怠らないことを肝に命じよ!!」
「はっ!!!」
ザッ!! フリーゲルの話が終わり敬礼を行うと、全ての兵士がそれに応え敬礼を行う。
今回この作戦に投入された部隊は第1~第10魔導中隊の約150名、後方支援部隊100名、そして各中隊ごとに特殊作戦魔導隊の隊員が1名ずつ付けられていた。
シルバーナ達第1魔導中隊は先の作戦で甚大な被害を出していたため、新たな補充要員が加わっているがその中の一人にはリリスの姿がある。
「・・・リリス、そっちは終わった?」
「はいエスティア少尉!」
「・・シルバーナでいいわ。そうやって言われるのあまり好きじゃないの。」
「えっ、でも・・・。」
自分達のテントに戻ったシルバーナは隣で準備を進めるリリスを手伝いながら声をかける。
補充要員としてリリスが配属されてくるなんてね・・。
それに新兵の初任務が実践とは・・。
「・・それじゃ、シルバーナさんって呼んでもいいですか? 今までみたいに。」
「ふふっ、もちろん。これからよろしくねリリス。」
「第1中隊、集まれ!!」
リリスが顔を赤らめながら答えたことにシルバーナが笑みを浮かべていると、アスベルが現れ隊員達を集める声が上がり、二人は急ぎテントの中から外に出た。
「よし、全員揃っているな。今回我々が受け持つ箇所はここから北に5kmの旧市街地、へリードだ。」
「そこが安全か確認したのち、再びここに戻ってくる。出発は1時間後、各自魔導装甲を着用し待機しておくんだ。」
「了解しました!!」
アスベルの言葉で、隊員隊は一斉に敬礼を行う。
魔導装甲。魔力により強化された装甲であり、異形の者(ゲスティル)の攻撃にも十分耐えうる防御力を持っている。
また着用する者の魔力に反応し、形状を変化することも可能であり、対異形の者(ゲスティル)戦における重要装備の一つである。
先日行われた偵察では異形の者(ゲスティル)との遭遇が考慮されていなかったこと、魔導装甲1つにかかるコストが高額であることから配備されていなかったが、今回の作戦にはすべての魔導隊隊員に装着が認められている。
「・・・あれ? 上手く付けれない・・。」
「私がしてあげるわ。」
「あっ、すみませんシルバーナさん。」
シルバーナはテントに戻り魔導装甲を着用しようとするが上手く出来ないリリスの背後に回ると、魔導装甲の着用を手伝い始める。
「・・・リリス、危なくなったらすぐに逃げるのよ? これだけは約束して?」
「・・・は、はい。でも私こう見えて訓練ではトップの成績だったんです。きっと役に立ってみせま・・」
「分かった???」
「わ、分かりました・・。」
シルバーナの気迫にリリスはそう約束すると、シルバーナは笑みを浮かべ魔導装甲を装着し終えるとその両肩に優しく手を置いたのだった。
旧市街地 へリード。
かつては交易都市として栄えていた都市も、今では建物は崩れ落ち、様々な動物が自由に街の中を行きかい、その名残をかろうじて感じることが出来るだけだった。
「全員、周囲を警戒しろ。偵察中はむやみな発砲は禁止するが、もし異形の者(ゲスティル)を見つけた場合は銃の使用を許可する。」
ガチャッ・・。アスベルの言葉で街の中に足を踏み入れた第1魔導中隊の隊員たちは銃を構えその中を進んでいった。
この前の街に残っていた建造物もそうだったけど、ここに残っている建造物も本当に綺麗・・。
でもここに暮らしていた人たちもその殆どは・・。
ギュゥ・・。シルバーナは銃を構えながらもその先に見える建物を見つめ、ここで暮らしていた人々の生活を奪っていった異形の者(ゲスティル)の存在に強い怒りを覚えていく。
「アスベル少佐。次は建物の内部を調べてみては??」
「そうだな。だがお前も勝手な行動は慎めよ?」
「分かっております。」
しばらくしてアスベルに他の隊員とは違う装備に身を包んだ男が話しかける。
彼の名は、ヴィリー・ヘス。特殊作戦魔導隊の隊員であり、今回私達に随行している。
魔導作戦魔導隊は元老院直属の部隊で、その任務内容は謎に包まれている。
あのアスベル隊長も彼の扱いには手を焼いているようだ・・。
シルバーナはアスベルと話すヴィリーのを見つめながらその得体の知れない雰囲気に警戒を強めていった。
「・・・よし、ではシルバーナ! お前はリリスを連れ南側を偵察してくれ。」
「了解しました。」
「リリス、行きましょう。」
「は、はい!」
しばらくしてアスベルの命令を受けたシルバーナはリリスに声をかけ進み始め、リリスも緊張した面持ちでその後に続く。
ザッ・・。 しかしシルバーナが中隊から離れると、アスベルから魔通信が入った。
「シルバーナ、聞こえるか?」
「聞こえます。どうしました??」
「誰にも聞かれたくないからな、手短に言うがヘス中尉には注意を払っておいてくれ。」
「奴はこれから単独行動に入る。だが俺はどうしても奴が信用できない・・。」
そうか、隊長も私と同じ考えだったのね・・。
シルバーナはしばらく考えた後、後ろのリリスに聞こえないよう慎重に答える。
「分かりました。こちらも警戒を強めておきます。」
「ああ。ではこれで魔通信を切るぞ。気を付けろよ。」
ザッ。アスベルが通信を切った後、シルバーナはその内容を胸に留め、さらに前進を続けた。
それにしても静かすぎるわね・・・。
何にか嫌な予感がする・・。
「・・・・シルバーナさん!! 正面約50mに何かいます!!」
ガチャッ! リリスの声でシルバーナは急ぎ膝を付き正面に銃を構え、魔導照準で前方を警戒する。
・・・・あれは!!!
そんな、ここにもいるなんて・・。
「リリス、銃を下ろしなさい。」
「で、でも・・。」
「いいから・・。」
シルバーナはリリスの構える銃身を押さえ銃口を下げさせると、目の前に見える小さな陰に近寄っていく。
「・・・・こんにちは。」
追いついたリリスはシルバーナが膝を付き笑みを浮かべ語り掛けるその先に、その言葉に笑みを返す裸の小さな人間の子供を見つけるのだった。
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