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工房主の実験録  作者: さくま
19/26

 幕間 ~孤児アルメルト~

物心付いた時から自分の周りにたくさんの人がいた

自分と同じくらいの年齢

離れていても1~3歳程度


そんな子供たちの一人が私だ


言葉をある程度理解できる年齢になると自分が"アルメルト"と呼ばれていることも分かった


定期的にやってくる大人は自分たちを世話してくれた

簡単な勉強、言葉使いを教えてくれた

食事はもちろん、水浴や排泄物の面倒まで


しかし、不思議とその大人達を母、父とは呼ぶ気にならなかった


それも5歳の時に理由が分かった



「君たちは孤児だ。ここまで面倒を見てきたがこれからはそうはいかない。帝国のために努力をしなければならない」

厳つい顔をした男性が低い声でそう告げた


それを聞いた時の反応は2通りだった気がする

訳が分からないときょとんとする者

今まで親と思っていた人達が他人と知った驚きなのか、泣き出す者


私は...前者だろうか

訳が分からない、と思いつつこれからどうなるのだろうか、という不安があった


その厳つい顔の男性が次に何と言うのか、しばらく見つめる

その男性はある程度、皆が静かになるまで待っていた

怖い顔をしているが、優しい人物なのだろうか


そんなことを考えていると、男性が口を開く

「不安もあるだろうが、よく聞きなさい。君達は親に捨てられた孤児だ。ここにこうして集められたのは、そんな君たちを哀れに思った、わけではない。帝国の軍人になるべく幼少期から英才教育を行うためだ。これまでとは違い、辛い、厳しいと思う勉強や訓練をしなければならない。」


「いや..」

「なんで...」

「...えーん」


そんな声がちらほらと聞こえる


「急な話で戸惑う気持ちは分かる。...分かるが仕方のないことだ。今日のところは話だけだ。明日から今言ったように授業が始まる。」


そう告げると男性は他の大人達に指示を出し、部屋から去っていく


「明日から...頑張らないと」

幼いながらもそう感じた私は呟いた




次の日から男性..後にベルンという名前だと知った

ベルンの言った通り、厳しい授業が始まった


礼儀作法に言語、計算

更に武器を使った武術の指南

色々な武器を触ったが、私の場合は片手剣が一番使いやすかった


それから基本的な魔術操作である流色の習得

魔力が豊富な子供達は更に発展的な魔術の授業が行われた、らしい


私には魔術の才がなかったせいでどんな内容の授業が行われていたかは分からない

ただ他の子供たちが自慢げに魔術を使う様子を妬ましく思ったものだ


仕方なく、剣術を極めるべく努力した


他の子供たちも同様だ

剣術にしろ、魔術にしろ周りの子供達も努力していた

なぜならそうしなければならない、と言われたから


そしていつの間にかそれが普通になっていた

始めこそ訳が分からなかったが、それが私たちの生活に変わったのだ




そんな生活が12歳になるまで続いた


ある日のことだ

「ここまで、よく頑張った。」

ベルンに集められた私たちはそんな言葉を耳にする


「お前たちは卒業だ。順番に私の部屋に来い」

唐突にそんな言葉が投げ掛けられる


たまにベルンの部屋に呼ばれることはあったが大概は怒られる

礼儀がなってない、剣筋がなってない、誰々を手本にしろ、とかだ


ただ今回は様子が違う

卒業...とは?


よく分からない

どちらかというと億劫な気持ちが勝っていた


そんな気分で部屋を訪れる

「アルメルトです」


「入れ」

そういわれ、扉を開け中に入る


「そこに座れ」

「はい」

指された椅子に腰かける


「早速だが、卒業にあたりお前、いやお前達には選択肢がある」

「選択肢、ですか?どのような?」

「帝国のために、このまま帝国内で残るか。または帝国のために国の外に出るか、だ。」

「それが卒業ですか?」

「そうだ」


そうだ、と言われてもイマイチ、ピンと来ない


なので

「国に残るのと国から出るのは具体的に何が違うのでしょうか?」

聞いてみる


「...それを確認しなければ分からない様では、だな」

「え?」


どうやら失言だったらしい

「あの...」

「いや、いい。お前達はこの歳まで帝国の英才教育を受けてきた。事実、お前も含めて優秀な人材が育ったといえるだろう。だが、あくまでその歳にしては、だ。もちろん格別な才を持つ者もいるがな」


あぁ、なるほど

確かに彼らなら、最初の問答でこれからベルンが話そうとしている内容を察することも可能だろう


今さら手遅れだろうが心当たりはある

どうせなら、答え合わせをしよう

「つまり、その格別な者は国内に。そうでない者...私を国外に追い出そう、ということですね?」

自分で口に出すと、悲しいものだ

ここまで努力してきたというのに、また、捨てられるのか...


「なぜ、そうなる?」

「え?」

違ったらしい


「アルメルト、お前は誠実だが早合点する癖がある。そこは直すべきだな」

「申し訳ありません。では...」

「途中までは正解だな。優秀な者たちはこのまま帝国内で更なる教育を施し、ゆくゆくは重役の護衛や補佐にする予定だ」

「では、私は?」

私はそこまで優秀ではない

魔力はある、といえる程度だし剣術もまだまだだ

そんな私は一体、どうしたらよいというのか


「だから、最初から言っている。このまま帝国内に残って研鑽を続けるのか。または、外の世界で見聞を広げるか、だ。」


最初から言っている、か

確かにそう言っていた


言っていたが


「聞き方が意地悪ではありませんか?」

「そこも含めて見聞を広げるべき、だと私は思うがな」


確かに分かりにくい言い方ではあったが察するべき所もある


逆にもっと分かりにくく、回りくどい言い方もできただろう

仮にだが、最悪騙すことを前提とした話、なんてものもあるだろう

外に出て、それらを学ぶ、か


だと、したら私の答えは決まっている


「私は外に出ます」

「そうか」


ここまで経験不足を指摘されて、学びたくないです!とは言えない

逆にこの施設からほとんど出たこともないのに、そのような会話の裏側を察すことを経験する方が無理だと思うが...まぁ、できる人はできるのだろう

それができないから、凡人たる私なのか


「そう卑屈になるな」

心の中を読まれたかのように指摘される


なるほど

目の前の人物はそれができるのか


「アルメルト、確かにお前は魔術はいまひとつ、剣術はまだまだこれからだ。だからそんなお前だからこそ、国の外の出来事を経験することで新たな物が見えてくるのだ」

「...私のような凡人が万が一、国外で死んでも痛手は少ないでしょうしね?」


「くくっ、まぁ、そういう考えもある」

「まったく...見聞を広げることも目的ですが、国内に大事に残されるであろう彼らとこの先も比べられるのも辛いです。やはり、私は外に出たいと思います。」


「やはり卑屈だな」

「どうやらそういう性分のようです」


「そうか。では、また後日、詳細を伝える。」

「失礼します。」


扉を出て、考える

これからどうしようか



「では、いくつか決まり事があるから、伝える」


・帝国に攻撃行為を行わないこと

・情報漏洩をしないこと

・呼び出しがあれば戻ること

・呼び出しがなくても定期的に近況報告に戻ること


「分かりました...何か誓約書とかはないんですか?」

「魔術を宿したか?ないな。使わない」

「どうしてですか?帝国に仇なさないとは限らないのでは?魔術的な誓約書で縛っておくべきでは?」

「第一にお前たちに外部に知られて困るような情報は伝えていない。ので、仮に他国に捕まっても大して問題はない。第二に定期的に戻った際の報告に嘘、偽りがないかを確認するから問題ない。第三に魔術的な誓約書はどうしても行動を制限する。これから見聞を広げるには余計だろう。そして最後に...誓約書が勿体ない」


「最後のは聞きたくなかったです」


「...これからどうするつもりだ?」

「そうですね。多少お金も頂きましたから...生活の拠点を見つけたら冒険者になろうかと思います。身分も必要ありませんので。」


「そうか。定期報告は生活が落ち着いてからで構わないが早めに来るように。近況を聞いた上で次の報告の時期を決めよう」


「分かりました。」


「...」

「...どうされました?」

ベルンが難しい顔でこちらを見ている

何かまずかっただろうか


すると不意にベルンが腕をあげる


ビクッと一瞬肩が震えた

長年の教育のせいで、つい


しかし、その手は優しく私の頭に乗せられた


「最後に、誓約書を書かせない理由だが...お前たちをそのような子に育てた覚えがないから、だな。元気でな。」


...この人はやはり、ずるいと思う


「ここを出ても裏切らないと誓います。...親を裏切るようなことはしたくありません。では、またすぐに戻ります...ベルン様」






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