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工房主の実験録  作者: さくま
17/26

漆黒のナイフ

「ボアを地面に置いてくれるか」

「はい」

豚を野生化させたような魔物、ボア

毛むくじゃらで体調は50cmほど

ボア種の特徴は硬質化した鼻先だ


この鼻で食べ物を探したり、外敵と戦うらしい

上位種になると更に硬く、鋭くなると図鑑に書いてあったな

豚に似ているのはボアが家畜化されたのか

はたまた、豚が魔物化したのか...

興味はあるがとりあえず今は後回しだ


そう、今は別にやることがある

漆黒のナイフを構える



「(漆黒のナイフってのもカッコ悪いな...何か名前を考えるか)」

「...どうしました?」

「あぁ、すまん」

考え込んでしまった

こほんこほん

気を取り直してっと


(ボア...こいつは食材、材料だ。まずは頭。刃渡りは30cmもあれば十分か...)

「え!?刃が伸びた!?」

アルメルトが驚くのは当然だ

俺が握るナイフは今や刃渡り30cmほどの小太刀の様になっている


だが


「またまだ驚くのはこれからだ」

ボアの横に膝を付き、左手で頭を固定する

そして、ナイフをボアの首筋に当てゆっくりと刃を落としていく

力はいらない

ただ慎重に...加工することだけを考える


すぅー...ごろん


ボアの頭が落ちる

「うわぁ、凄い切れ味...」


よし

次は腹だ

内臓は傷つけないように

今度はナイフが刃渡りは15cmほどに

そして先端は丸く変形する

そのまま切り落とした頭の所から喉に刃を当て、地面と水平に滑らせていく

するすると刃がボアの対内を通過していく

肛門まで届いた所で刃を抜く

先端を丸くしたことで内臓も傷ついていないはずだ


次は、内臓を掻き出す

手で引っ張り出し、筋やら膜やらを切り離していく

そして皮を剥いでいく

刃の先端は再度鋭く変形させてある


皮を剥ぎ終わったら部位に分ける

前足...後ろ足...


「ふぅ...最後は胴体だな」

骨は肉に比べるともちろん硬いだろうが関係ない

背骨から肋骨を切り離すように背骨に沿って、骨ごと切断する


ゴリゴリと骨を切断する音は聞こえるが手元に抵抗はない

まるで水でも切っているような感覚だ

手にある感覚はナイフの重みだけ


「完了っと。初めてにしてはなかなか綺麗にできたんじゃないか?」

自慢げにアルメルトを見ると口に手を当て何か考えている...のか?

「すごい...。魔道具、初めて見ました。あれほどの切れ味...食材の下ごしらえに使うのは勿体ないですね。」

「もっともだな。だけど、食材切るだけじゃないぜ?ほら」

と指差した方向には薪が転がっている


「まさか、あれも!?」

「あぁ、このナイフで加工したんだ。」

立ち上がり、薪が転がってる場所に向かう

そしてまだ薪になっていない木を手に取る


そして、薪に加工する道具をイメージする

斧?そんなのつまらない


細く長い取手

さらにその先端には錨を2つ組み合わせたような形状

十文字といえばいいだろうか


それを木に当て、真っ直ぐ降ろしていく

木はそのまま十字に切れ、薪が4つ転がる


「こんな具合だ」

「使用者の用途に合わせて変形する魔道具、更にその切れ味...武器としては最高級ですね...」

「そう、思うだろ?」


「え?」


アルメルトの腕をナイフで撫でる


「な、ななな何を!?」

「まぁ、落ち着けって。腕、傷の1つもないだろ?」


「は?え?本当ですね...どうして」

「こいつは武器としては使えない。素材、材料のみを切れるナイフだ。どうだ?」

「どうだ?って聞かれても...恐ろしい魔道具から便利な魔道具に格下げでしょうか?変わった能力ですね」

「まぁ、確かにな...でも俺はこいつを気に入った。まさに俺のための魔道具だ。」

「魔道具としては凄く微妙な気がしますが。噂によるともっと恐ろしい魔道具もあると聞きますし」

「いいんだよ。仮にこいつがどんなものでも切り裂ける武器だとしても、それを振り回す俺にアルメルトは負けるか?」

「...おそらく余裕で圧殺できると思います。」

「圧殺って...まぁでもそういうわけだ。俺は魔法も使えなきゃ、武術も使えない。ならそれを補える物に頼るしかないからな。このナイフならそんな物が作れる。いや作ってみせる」


「変わってますね」


「そうか?俺みたいな立場の人間なら当然の帰結だと思うけどな。そもそもこの世界で魔力がないって段階で変わってるらしいから仕方ないか」


「それもそうですね。そういえば、先程からこのナイフ、このナイフって言ってますけどせっかくの魔道具なのに名前とかないんですか?」


「やっぱり名前あった方がいいと思うか?...何か案とかある?」

「"ナイフ"と言われても、その魔道具とは分かりませんしね...そうですねぇ...」


しばし考え込むアルメルト


「...ヴェルグ」

「ん?」

「ヴェルグ、なんてどうでしょうか?」

「ヴェルグ、か。いい響きだな...気に入ったよ。どんな意味なんだ?」

「意味!?意味、意味ですか、と、特には...あはは」

「どんな意味なんだ」


その反応で、何でもないですよ、はないだろ?

これから一緒に頑張る相方の名前だ

変な意味をつけられたら困る


「...変わり者、です」

「は?」

「変わり者、変人...みたいな意味で。いやでも、姿形が変わるナイフですし、使うバーディウスさんも魔力がない稀な方ですし!その...すいません。他のを考えます!」


変わり者、変わり者か...

アルメルトが俺の事を変人、と思ってる可能性もかなり高いが

まぁ、それでも


「いや、いい。気に入ったよ。的を射てるしな。じゃあ、こいつは黒いから、安直だけどクロ...ヴェルグ...変人の黒刀(クロノヴェルグ)ってはどうだ?」

「はい、いいと思います!」


「よし、じゃあ名前も決まったことだし、お祝いってほどでもないがボアの肉で晩飯にしよう。薪もたくさんあるしな」

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