周辺調査
「ただいま、戻りました」
「おう、おかえりってなんじゃそりゃ」
玄関を開けると、アルメルトが立っている
そしてその手には毛むくじゃらの物体が抱えられている
だいたい50cmくらいだろうか
それが彼女の小脇に抱えられている
「ボア...か?にしても、女子が豚の魔物抱えてる姿は違和感凄いな」
「せっかく捕まえたのに酷い言われようですね。いらないんですか?」
「いるいる。ありがと。でも、魔物出たのか...そうすると魔物避けがあるかもって予想は...」
「いえ、魔物避けらしきものはありました」
「え?」
「それから、水源の確保も滞りないです。冒険者たるもの水探しくらいお手のものです」
「水は切実だったから嬉しいが...魔物避けあったのか?魔物出たんだろ?」
「ええ、魔物避けの外で。魔物避けらしき臭い付きのロープがこの小屋の周りにぐるッと張り巡らされています」
「臭い付きのロープ?それが魔物避け...臭気液を染み込ませて、魔物が近づかないようにしてるのか...」
「臭気液?傷水薬と同じような不思議道具ですか?」
「不思議道具って...まぁそうだよ。オークと出くわした時もそいつをぶつけて追っ払ったんだ。」
「なるほど...あぁ、それで初めてお会いしたときバーディウスさん酷い臭いだったんですね。確かに同じような臭いでした。原料は下水か何かですか?」
「酷い第一印象だ。むしろよくそんな男に付いてきたな!?」
「あの状況では仕方なかったので」
「まったく...でもそれを応用した魔物避けのお陰で、俺はあの道で魔物に遭遇しなかった訳だ。」
「そうですね。バーディウスさんに魔力がないとはいえ森の中でほとんど魔物に出会わない、というのはおかしいと思いました。念のため警戒はしましたが特に何事もなく探索できました。あぁ、でもスライムは見かけましたからどこまで効果があるものなのかは分かりませんが」
「俺に魔力がない関係ある?ここで俺の唯一の欠点を突く必要ある?それはそうとスライム!スライムはどこだ!?」
「色々まとめて聞かないでください。スライムは今はいませんよ?捕まえて来た方が良かったですか?」
「もちろん!」
「スライムですか、じゃあ、次は瓶でも持っていってみましょうか」
「おう!でも、なんでスライムは魔物避けの範囲内部にいるんだ?それにあの時のオークも...」
「あー、それなんですが...」
「何か心当たり?」
「いや、魔物避けを見たときに、そういえばオークから逃げる最中に何か紐を切ったなって思い出しまして...案の定でした。ロープを辿って行ったら途中で切れてました。すみません、オークはたぶん私が引き連れてきてしまったみたいです。修復はしておきました。周囲も確認しましたが魔物らしい痕跡はなかったので安心してもらっていいかと思います。」
「...そうか。それは仕方ない。んで、辺りを探す最中にそれを捕まえた訳か?」
「魔物避けから少し離れた所ですぐに見つかりました。ウルドーの森は魔物が多いのでしょう。にも関わらず魔物避けの内部で魔物を見かけないのはやはり魔物避けが機能してるおかげだと思います。」
「じゃあ、スライムは?」
「そう、ですね...魔物避けの内部で発生した、かそもそも嗅覚がない、かその両方ですか、ね?」
「まぁ、そうなるか」
臭気液を使った魔物避け
オークみたいな嗅覚の優れた魔物を避けるには効果的だろう
ボアもオーク同様、豚型の魔物だから嗅覚は鋭そうだけど...
アルメルトの考えは一理ある気がする
ゴブリンや他の魔物はどうなんだろうな
他の魔物もあえて臭い所に近づかないのか?
これも調査が必要だな
「じゃあ魔力がないのにっては?」
「魔物は魔力を求めて人を襲います。なので、魔力がないバーディウスさんは襲われる可能性は低いのかな?と。とはいえ魔物を全く見かけないっても変だな、ということです。」
「ということです、って魔物の習性は初耳だな」
「そういえば魔物についてはまだ話してなかったですね。えと、落ち着いたらでいいですか?」
「そうだな...そうしようか。ちなみに水は?」
「水は道とは反対方向、小屋の裏手に川がありましたよ?」
「え?」
「川です」
「いや、そうじゃなくて...裏手?」
「はい...何か?」
「いや、そんな近くにあるなんて」
「...くす」
「今、馬鹿にしたな!仕方ないだろ!目の前に道!そっち選ぶだろ!」
「はい、そうですね。仕方ないです」
くそう
でも、水がないから探してくれよ~、と泣きついたら「え?そこにありますよ?」だ
恥ずかしい
「はぁ。まぁ、でもこれで水、計らずとも食料も何とかなった。これで本題に取りかかれる」
「本題っていうと朝言ってた"実験"ですか?」
「そうだ!まずは『スライム』だ!」
そう、色々試したいことがある
そのためにアルメルトに滞在を許したと言っても過言ではない
「スライムですか?」
「そう、スライム。簡単に捕まえられるだろうし、最初には最適だろ?」
「簡単に...生きたままですか?」
「おう...簡単...だろ?」
「まぁ..どうでしょう?」
あれ?スライムは俺でも捕らえられるような魔物では?
アルメルトの歯切れが悪い
「いえ、退治したことはあるので倒すのは簡単ですが、捕まえるとなると」
「難しいってか?俺でも何とかなるのに?...ちなみにアルメルトの知ってるスライムの事を教えてくれ」
「えーと、どこにでもいる魔物で、身体は粘液性。切ると水の様に変様しますが、身体の一部は再び動き出すので、最初から魔法で倒すのが有効です。もし切って倒すとなると動き出したスライムをもう一度切ります。破片が動き出したら更にもう一度。それを繰り返さないといけません。最終的には全てが水のようになり、討伐完了です。基本的には無害ですが、体内に何でも取り込んで消化してしまうので、作物とかに被害が出ることがあるので討伐依頼が出ます。切り刻むのは骨ですが、難しい事はないので新人冒険者には人気がある依頼です。稀に変異種である毒スライム、巨大スライムなんかが発生して人的被害が起こることもあります。」
「捕まえることは?」
「倒した上でなら。たまに水の確保に困ったときに水の代わりとします。とはいえ、普段何を消化してるか分からないですし、今回みたいに水源を探せば済む話ですから、本当にたまにです。生け捕りなんて少なくとも私は経験ないですし、依頼としても見たことないです」
「スライムの粘性を保つ方法は?」
「粘性を?それこそ生け捕り、ですか?」
「そう、だな」
あくまで討伐するための知識だ
ってことは育て方は知らないな
これは楽しくなってきた
つい頬が緩む
「なかなかいやらしい笑い方しますね」
「生まれつきだな。だがそうと決まれば、スライムの素材確保&飼育個体確保だ!」
「はぁ、まぁ宿を借りてる身なので手伝うことに異論はありません。どっちにしろ仲間の探索もしないとですし...」
少し暗い顔をするアルメルト
「...そういえば、確認してなかったが野郎と1つ屋根の下で無用心では?」
「バーディウスさんが私を襲うと?」
「かもな」
「ふぅ...負ける気がしません」
「くそぅ」
「ふふっ」
少しは気が紛れたかね
「そういえば、バーディウスさんの方はどうですか?まさか私をお使いに出しといて何もしてなかった、なんてことはないですよね?」
「こっちも問題ない。ついでだ、そのボアで試してみるか?」